ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

2023-01-01から1年間の記事一覧

『禁じられた館』ミシェル・エルベール&ウジェーヌ・ヴィル 、 小林晋訳、扶桑社ミステリー、1932、2023ーー謎解きミステリの佳品

書評で評価されて気になって、手に取って、翻訳者の解説を読んで、手に取りました。訳者は未訳のミステリを捜して読んで紹介しているようだけど、1957年生まれということはそこそこの年齢だから半分道楽なのか、それとも仕事をとる戦略なのか、わからないけ…

『リトル・シスター 』レイモンド ・チャンドラー、村上春樹(訳)、ハヤカワ・ミステリ文庫、1949、2017ーーチャンドラーはあくまでストイック

レイモンド・チャンドラーの長編5作目の作品で、村上春樹の新訳版。旧訳の『かわいい女』はずいぶん昔に複数回読んでいます。新訳はこんなに長かったかなと思うくらいページ数が増えている。『かわいい女』は薄かったからね。それでもストーリーはまったく覚…

『エッジウェア卿の死』アガサ・クリスティー、福島正美訳、クリスティー文庫、1993、2004ーー古典的なトリックと小ネタがいくつも絡み合う

アガサ・クリスティの第13作目の作品。比較的初期で、前後は『邪悪の家』と『オリエント急行の殺人』で調子がよいときといえるかもしれない。もっともクリスティの場合、スランプというのはなかったようだけど。 クリスティは私にとって、初めて感動した謎解…

『ナイフをひねれば』アンソニー・ホロヴィッツ、山田 蘭 (訳)、創元推理文庫、2022、2023ーー犯人像・トリックともに心地よい

ホーソーン&ホロヴィッツシリーズの第5作目の作品。いつもの通り、読者を裏切らない端正な謎解きミステリ。イギリスの芝居劇場を舞台としているので、クリスティの雰囲気もたっぷり。 ホロヴィッツはホーソーンとの共作を断ったが、ロンドンで始まった自分が…

『エンタメ小説家の失敗学~「売れなければ終わり」の修羅の道』平山瑞穂、光文社新書1239、2023

ネットで紹介されて興味をもった新書。平山氏の小説の出版遍歴をまとめたもので、出版社・編集者・読者との距離の取り方を間違えていたものというもので、面白い。私は平山氏のお名前は知っていましたが読んだことがなかったということは、私の興味にひっか…

『幽玄F』佐藤 究、河出書房新社、2023

『テスカトリポカ』『爆発物処理班の遭遇したスピン』の佐藤究氏の新作。処女作から読もうと思っていましたが、書店で本作を見かけて好評との情報を得て購入。しかしエンタメではなく純文学でちょっとがっかり。『金閣寺』みたいな純文学、航空機パイロット…

『滅茶苦茶』染井為人、講談社、2023ーー確かに滅茶苦茶だけど説得力あるね

初めての著者で、どの書評家も忘れてしまったけど、評判がよいこと、著者が横溝賞をとっていること、適度な長さの現代ミステリを読んでみたかったことなどから手に取りました。 時は2020年の最も最初のコロナ禍で緊急事態宣言でステイホームの真っ最中。一人…

『イラク水滸伝』高野秀行、文藝春秋、2023ーーエンタメノンフここにあり

高野氏の作品は久しぶり。私は処女作の『幻の怪獣・ムベンベを追え』が出版されたとき、『ミステリマガジン』のノンフィクション書評でたぶん西木正明氏が紹介していて当時に単行本で購入して以来読んでいる。本書もそれから変わらない手法で書かれたエンタ…

『VISION 夢を叶える逆算思考』三笘 薫、双葉社、2023

ブライトンの三笘選手がカタールワールドカップ後に出版した、自分がこれまで意識したことを書いたものだ。こういう書籍は自伝なのか、エッセイなのか、ノンフィクションといってよいのか迷う。スポーツノンフィクションがもっとも合っているのだろう。この…

『キツネ狩り』寺嶌曜、新潮社、2023ーー『ハコヅメ』の影響を受けているか?

どこかの書評か何かで気になり、Amazonの評価で気になり、手に取って「新感覚警察小説」の帯と、1958年生まれのグラフィックデザイナーの経歴の著者で気になって、手に取ったもの。今どきの新人はこのくらいフックがかからないと手に取らないね。 ソフトカバ…

『鵼の碑』京極夏彦、講談社ノベルス、2023ーー京極堂シリーズのオールスタープロジェクト

京極夏彦氏の京極堂シリーズ(昔は「百鬼夜行シリーズ」ではなく、そういっていたはずだ)の17年ぶりの新作。相も変わらず分厚い新書を必死こいて時間がない中読みました。 最初『姑獲鳥の夏』から『絡新婦の理』まで、すべて傑作だったので、とんでもない天…

『秋期限定栗きんとん事件:〈小市民〉シリーズ』米澤穂信、創元推理文庫、2009ーー『ホッグ連続殺人』を下敷きにする

米澤穂信氏の「小市民シリーズ」第3弾の作品。ずいぶん前に買っていたものだけど何故か積読しっぱなしで、今回手に取ったのは偶然目にとまりました。 久々に読んだことになるけれど、こんなライトノベルらしいライトノベルだったかというのが第一の感想で、…

『同期生―「りぼん」が生んだ漫画家三人が語る45年』一条ゆかり、もりたじゅん、弓月光、集英社新書、2012

同時に『りぼん』の新人賞を受賞した3名の漫画家に対して、自らの漫画家としての軌跡をそれぞれインタビューしまとめたもの。少し前のものだけど三名三様のものがあり、とても面白い。 僕はどの作家に対しても、あまり読んでいない読者だけれども。例えば、…

『死と奇術師』トム・ミード、中山宥訳、ハヤカワ・ミステリ、2022、2023ーー黄金時代の謎解きミステリのバリエーション

作者のトム・ミードはこれが処女作。短編はいくつか発表しているらしい。本書はピーター・ラヴゼイの後押しを受けて出されたようです。ガチガチの謎解きミステリファンらしく、本書は両親とともにカーにささげられています。 舞台は1936年のロンドンで心理学…

『「ずる賢さ」という技術:日本人に足りないメンタリティ』守田英正、幻冬舎、2022

著者はボランチのサッカー日本代表選手。流通経済大-川崎F-サンタクララ(ポルトガル)を経て、現在スポルティングに属する。ワールドカップ後のユーチューブでの戦略を具体的に語っていたインタビューが印象的で興味をもつ。 「ずる賢さ」=マリーシアという…

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル、山中朝晶 (訳)、ハヤカワ・ミステリ、2021、2022ーーハードボイルド好きは必読

2022年のエドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)最優秀長篇賞受賞作。戦時中の物語で避けていたけど、ハードボイルド臭が強い小説と紹介されていたこと、非常に評判が良かったことで読んだけど、久々の傑作ミステリでした。 とにかく文章が読みやすい。三人…

『鹿狩りの季節』エリン・フラナガン、矢島真理訳、ハヤカワ・ミステリ、2021、2023ーー新人賞らしくない

本作は、新人作家のデビュー作にして、2022年度アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。舞台は1985年のネブラスカ州の田舎町で、アメリカ田舎町がこれで2冊連続だけど、女子高生が失踪したところから始まる。といっても探偵も警察の捜査を描くわけでは…

『円周率の日に先生は死んだ』ヘザー・ヤング、不二淑子訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2020、2023ーー構成のトリックは不発

タイトルに惹かれたのと、現代ものであるのと、2021年度アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)候補作なのだからある程度面白い作品だろうと期待して手の取った作品。タイトルは、3月14日=円周率の日に、数学教師のアダム・マークルの焼死体が発見されたという…

『君のクイズ』小川哲、朝日新聞出版、2022ーー謎の提示が魅力的

テレビなどに出演したりするクイズプレーヤーが主人公で、クイズ番組の最後のクイズで、クイズが出される前に正答したプレーヤーがどのようにして正答したかを、その相手のプレーヤーが探るミステリ。なるほど、このような「謎」の提示の仕方もあるのかと驚…

『#真相をお話しします』結城真一郎、新潮社、2022ーー新しい酒を新しい皮袋に盛る

新刊発行当初、確かネット上で評判がよかったとして、池袋のジュンク堂書店の1Fで全面展開の販売がされていた作品。4つの短編が収められている短編集で、ネタは古き杯に新しい酒を注いだような感じで現代的でキレキレで、ある程度分量がある短編にもかかわら…

『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件』白井智之、新潮社、2022ーー伊坂幸太郎系あるいは舞城王太郎系

本作も昨年のミステリランキングで評判がよかった一作。作者の白井氏はまったく知らなかったが、ウィキペディアによると1990年生まれだから若干33歳でめちゃくちゃ若い。経歴をたどるとかなり過去作もかなりの評価を受けています。 タイトルから新本格系かと…

『まんが原作・原論:理論と実践』大塚英志、星海社新書、2023

大塚氏のクリエイターブックスについてはネタがもうないのかなと思っていたが、まんが原作の方法という大きいテーマがあったわけです。とはいっても、普通の漫画原作作成方法ではなく、書名に「原論」とついているように、まんが原作の定義から解説されてい…

『爆弾』呉勝浩、講談社、2022ーー現代風のリアリティあるテロリスト・スリラー

昨年、ベストミステリランキングを軒並み1位をとった作品。都内に爆弾をしかけたテロリスト・スリラー。Amazonではノンストップミステリと評価されていたので久々に味わいたいと思って購入したけど、結局は自分の忙しさのため断続的な読書になってしまいまし…

『魔王の島』ジェローム・ルブリ 、坂田雪子監訳、青木智美訳、文春文庫、2019、2022ーーフランスで複数の賞を得るなど評判を得たサイコ・サスペンス・ミステリ

フランスで複数の賞を得るなど評判を得たサイコ・サスペンス・ミステリ。ジェローム・ルブリの第3作めの作品。 新聞記者のサンドリーヌ・ヴォードリエは、祖母の訃報を受けて、祖母が住んでいた孤島に渡った。その孤島に着くと、戻る交通路は10日後となると…

『殺しへのライン』アンソニー・ホロヴィッツ、山田蘭、創元推理文庫、2021、2022ーーリゾート地での殺人

ホーソーン&ホロヴィッツシリーズの第4作目の作品。読むのに時間がかかってしまいました。どうも読書時間を確保するのが難しい。 ホーソーンとホロヴィッツは、新作の出版のプロモーションとして、イギリスとフランスの間にあるオルダニー島で行われる文芸フ…

『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー,鈴木恵(訳),早川書房,2020,2022ーーミステリではなく『はみだしっ子』に似ている

本書は,英国推理作家協会賞最優秀長篇賞で書評の評判がよく手にとったが失敗した。各種ランキングで評価を受けているから,万人に受ける作品化と勘違いしていた。 ミステリ好きには2種類いて,これは「あちら側」の人が好きなミステリだった。だいたいこれ…

『キュレーターの殺人』M・W・クレイヴン, 東野さやか訳,ハヤカワ・ミステリ文庫, 2020, 2022――前2作を超えた展開と面白さの矛盾

マイク・クレイヴンの3作目の作品。本書の解説にもあるとおり,第1作・第2作とも極上の謎解きミステリであったが,本作は異なった。 事件が起こり,少しの手がかりをもとに,謎が解けて新たな(なぜ早川書房では「あらたな」とひらくのだろう?)謎が生まれ…

『爆発物処理班の遭遇したスピン』佐藤 究,講談社,2022ーー現代ミステリ短編の傑作集

『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞,第165回直木賞を受賞した作家の8本の短編を収めた短編集。才能ある作家には一冊傑作短編集があるけれど,本書はめったにない,その一冊。8本すべてがバラエティに富んでいて愉しめる。☆☆☆☆☆というところです。ちょ…

『かくして彼女は宴で語る—明治耽美派推理帖』宮内悠介,幻冬舎,2022ーー明治期の黒後家蜘蛛の会

宮内悠介氏の謎解きミステリで評判がよいという情報以外まったくもってなかったなか読んだら,明治時代の作家,詩人などの文化人の集まりの会が舞台で,そこで出された謎を舞台の西洋料理店の女中があっけなく解くという黒後家蜘蛛の会の日本版で驚いた。 し…