ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『猫の舌に釘をうて』都筑道夫、徳間文庫、1961、2022ーー二重・三重の設定の謎解きミステリ

 都筑道夫の長編ミステリ第2作目の作品。『やぶにらみの時計』と同様に短かったので、連続して読んだ。本作は昔読んだのだけど、まったく記憶にありません。初読とまったく同じです。発表はジャプリゾの『シンデレラの罠』の前年であり、オリジナリティがバリバリの作品である。作家・都筑道夫が主人公の作家・淡路瑛一の作品を書いたミステリという設定で、さらに淡路が自分を主人公としたミステリで非常に手が込んでいます。気をつけて読まないとその設定を忘れてしまい、☆☆☆★というところです。

 しかし都筑道夫って、元祖オタクだったのだなあと感じる。

 

『やぶにらみの時計』 都筑道夫、徳間文庫、1961、2021ーートリッキーな二人称小説

 分厚い小説が続いたので、短期間で読み終えられる小説ということで、また都筑道夫の初期長編が徳間文庫で再刊されていたので手に取りました。

 二人称の小説で、ストーリーとは言うと、朝起きてみると、妻や友人が自分のことを別人の名前で呼ぶという謎から始まって、主人公の男が知っている東京の地域をかけずりまわるというもの。トリックはあるんだかないんだかというもので、面白さとしては普通で、☆☆☆★といったところです。

 そういえば、最近のとある古本市で都筑さんの「キリオンスレイ」シリーズや一人雑誌シリーズの単行本(文庫ではなくて)が多く売られていました。地が小さくて買いませんでしたけど。

『グレイラットの殺人』 M・W・クレイヴン 、東野さやか訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2021、2023ーースリラーと謎解きの融合

 クレイヴンの4作目の作品。ワシントン・ポーのシリーズ最新作です。前作までは謎解きミステリ一直線でストーリーに二転三転ありましたが、本作ではスリラー的要素も含んだものとなっています。しかし、事件を盛り込みすぎている感じがして、本筋になかなか入っていかなかったという印象です。もうちょっと謎解きミステリとしてではなく、スリラーとして読んだほうが楽しめたのかなと失敗しました。

 殺人事件が起きて、事件解決を政府から受けたポーですが、被害者の経歴を調べていくうちに、軍人時代の人間関係と事件がからんでいくというもので、おそらくはイギリスでは有名な事件が元となっているようで、まったく知らなったので本筋に入るまで大変でした。

 確か『パイナップルアーミー』でフォークランド紛争において、イギリスの軍同士が打ち合いになったというエピソードが紹介されていましたが、本作で同じエピソードが紹介されていました。これはイギリスでは戦争の悲劇として象徴的なエピソードなんでしょう。

 というわけで、謎解き要素と意外な犯人要素が少し弱いなと感じたところで、☆☆☆★というところです。ちょっと長すぎたなあ。この作家の作品を読むたびに、文章が上手くないなあ(決して下手ではないけれど)と感じるのはなんでだろう?

『頬に哀しみを刻め』S・A コスビー、加賀山卓朗訳、ハーパーBOOKS、2021、2023ーーよくできたアメリカ映画の原作

 新人作家コスビーの第2作目の作品。アメリカ映画っぽい、息子を殺された父親二人のバディが犯人を捜しまわる復讐+ノワールもの。

 以前、第1作目の『黒き荒野の果て』を読もうと手にとってけれど、視点がコロコロ変わって読みづらくで最初の方であきらめてしまいました。本作では、視点の乱れは少々残るものの、再度の挑戦で、とりあえず最後までたどり着きました。

 ほかに視点がバラバラで読みづらかった作家として、クリスチアナ・ブランドがあげられます。『緑は危険』はダメでしたね。

 バディ二人が復讐に身を焦がし、過去を回想しながら、凶悪な犯人にたどり着くというストーリーでかつ、あまり謎解き要素はなく、犯人は社会的に憎むべき人物像で意外性がなく、クライマックスは派手で、単純なプロットで、視点はコロコロ変化し、まさに映画のようなミステリという感じでした。

 本作は評価されているのは、まさにそれらが好転して、きちんとしたエンタメになっており、加えて、あまり仲がよくなかった二人の父親の主人公が、息子たちの過去を知って、斬鬼の念を味わうところに共感を呼ぶのでしょう。私はこのようなキャラクターは阿保らしいと感じて、共感しませんでしたが。

 というわけで、☆☆☆★といったところです。

 

『トゥルー・クライム・ストーリー』ジョセフ・ノックス、池田真紀子訳、新潮文庫、2021、2023ーー信用できな語り手は疲れる

 ノックスの評判のよいノン・シリーズということで手に取ったけど、結論をいえば、まあ後悔。地の分がなく、インタビューとメールのみの本文が700頁近くあって、読んでも読んでも終わらない。

 マンチェスター大学の女子大生ゾーイ・ノーランが失踪して、6年経過したあと、新人作家のイヴリンは関係者にインタビューを行い、その結果を本作家のノックスにメールで原稿を送って、それを原稿としたノンフィクションという体裁の小説。

 インタビューだから登場人物がどのような「行動」を起こしているのかを把握するのに脳を切り替えなくてはならず、中途まで進んだところで、ようやく切り替わった感じで、またインタビューは無駄な描写が多く、どれがキーポイントかをつかむのに疲れる。また、すべての登場人物が信用できない語り手だけど、なにしろ長いから、どんどんスルーしてしまった。結局、真犯人は当てられず。というよりも、指摘されている犯人が本当に真犯人なのか?

 というわけで、☆☆☆というところです。本作は僕とは相性が悪かったなあ。

『フィッシュストーリー』伊坂幸太郎、新潮文庫、2007

 伊坂幸太郎氏の「動物園のエンジン」「サクリファイス」「フィッシュストーリー」「ポテチ」の 4つの短編を収めた短編集。僕としては、「サクリファイス」が面白かったかな。

『渇きの地』クリス・ハマー, 山中朝晶訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2018、2023ーージャーナリストが事件の真相を探るということは

 版元の「究極のホワイダニット・ミステリ」というコピー紹介、複数の書評で好評だったこと、作者がオーストラリアのジャーナリストのフィクションデビュー作で、英国推理作家協会(CWA)賞最優秀新人賞作であること、舞台が現代であることから手に取りました。

 主人公の新聞記者のマーティンはオーストラリアの田舎町で1年前に起こった牧師による銃乱射殺人事件の取材に訪れた。実際に取材をしていくと、複数の住民が牧師が起こした理由を信じていなかった。マーティンは事件の真相を探っていく。すると2名の観光客の死体が発見された…。

 冒頭は、記者が田舎町を歩き回り、町人に話を聞いていくというスタイルなので、淡々と事実を収集していくだけで、その割には描写が細かく、改行がほとんどないなど走り読みをしつつ、少しずつ世界が歪んでいる感じを受け取る。

 マーティンが事件についてある程度取材を行うと、文章をまとめて、記事を送るというスタイルで、そのために警官が自殺してしまい、テレビに取材を受けて、切り取られたインタビューで愚かな警官とテレビで放映されてしまい、新聞社から首を言い渡されるなど、マスコミ小説的な視点が読者を惹きつけます。

 真相は陰謀論などがあるなど、非常に複雑で、最後の100頁は理解するのに大変で、なかなか読み進められませんでした。この半分の分量だったらなあと嘆きつつ、☆☆☆★というところです。

 このキャラクター以前出てたっけと思うことが多く、残念ながら、なんとなく読者にフェアな感じがしないんですよね。でも、これがリアリティなんですかね。