ミステリを読む マンガを語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。専門書について語らないのでタイトル変えました…

『壜の中の手記』 ジェラルド・カーシュ、西崎 憲・他訳、 創元推理文庫、2026――グロテスクなとんでもフィクション

 本書は昔晶文社で出版されたとき評判だったので知ってはいたけど、その時読まなかった。そのあと角川文庫になったのは知らなかった。今回、「準古典」といえそうなものを文庫化している創元推理文庫になったので、読んでみたらこの奇妙な面白さに驚きました。

 19世紀の奇妙なストーリーの短編集というもので、無人島で発見された白骨遺体と日記の話、軟体人間の話、呪われた指輪の話、からくり人形を作り上げた天才時計職人の話など奇妙な設定から始まります。

 あとがきで悪意に満ちているというような説明をされていましたが、それがその通りで、ストーリーがグロテスクで円満にころがらず、ニヤニヤしながら読んでしまいます。各作品によって、ポーだったり、ディケンズだったり、夢野久作だったり、ブラウンだったり、ブラッドベリなどを思い浮かばせます。

 そのような意味で「準古典」と書きましたが、現在となっては、新しい物語を作るための元ネタともなるような濃い話すが詰まっています。というところで☆☆☆☆です。

『殺し屋の営業術』野宮有、講談社、2025――殺し屋に自分を営業職として営業する

 本作は第71回江戸川乱歩賞受賞作ということで評判になった作品で、ユーモアミステリあるいはコミックミステリ。古いところで言ってしまえば赤川次郎を、新しいところをいえば、主人公が鳥井という名前だったので『100万の命の上に俺は立っている』やテイストから『マイホームヒーロー』を思い起こさせます。

 凄腕の営業のプロが偶然、殺し屋による殺し屋の現場に居合わせて殺されそうになったところを、殺し屋の営業を営業することで金を稼ぐというストーリー。このあたり『ファントム無頼』の神田だけでファントムを乗っていたものの栗原が無理やりナビを引き受けて神田を納得させるエピソードを思い出します。

 コンゲーム風のストーリー展開で、テンポが速くて、どんでん返しもあって読みやすいのですが、キャラの区別がつかず、もっと書き込みがあったもよいのではと思うのですが、作者は枚数の少ない江戸川乱歩賞だから狙ってはいなんでしょうね。

 乱歩賞は、ある程度のレベルが担保されていることと新しい要素が何らかが求められてるのかなと思うのですが、今の流行りの要素が含まれているような気がします。というわけで、☆☆☆★(3.5)といったところです。

『無垢なる町』ヘンリー・ワイズ、吉野弘人訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2024、2026――意外な展開といっていいのか?

 どういう経緯で購入したか覚えていないのですが、このところ海外ミステリを100頁や200頁まで読んでも一向に面白くならず、中途で投げ出すことが数回あって、これは年に一回ある小説を読めない期間になってしまったかなと思い、できれば自分に合ったミステリを読むかと思い直し、本書のあらすじを読んだところ、ピッタリではないにしても近しいかなと判断し、加えてアメリカ探偵作家クラブ新人賞受賞なら、まあ一定のレベルに達しているだろうと購入したのはいいのですが、いざ後ろの解説を読んでみると書き手が訳者でもなく書評家でもなく、早川書房の編集者でいまいち不安になりました。

 

 舞台はアメリカ南東部にある入植当初の 13 植民地の1つで、さまざまな史跡が残っているバージニア州の中心地リッチモンドから離れた田舎町で、放火された家に刺殺された死体が発見された。

 容疑者は現場から逃走したところと逮捕された。

 保安官補のウィルの旧友で元フットボーラーが犯人だったが、そのようなことをすることをするものではなかった。

 それを信じない犯人の肉親は私立探偵を雇って無実をはらそうとした。

 

 作者は詩人で本作がミステリ第一作で嫌な予感がしました。

 案の定、行動だけでなく、キャラクターの心情をダラダラ書き連ねて退屈だと思っていたけど、30頁ぐらい読み進めたところから、その書き方が心にしみてくる。

 読みながら吉田秋生の『カリフォルニア物語』を浮かんだほどだ。

 昏さが通底しているんだよね。

 アフォリズムも多く描写の一つとして感じられる。

 これは作者が好きなんだろうね。

 加えてというか、加えられないのだが、犯人が結構簡単にわかるのだけど、その明かされかたが「えっ、ナニコレ、どうなってんの?」と驚きの声をあげてしまったぐらいあっさり明かされる。

 これを「ミステリじゃない」という批判もできるけど、読み手としては意外な展開のように感じた。

 とにかく伏線がなく、ストーリーが後出しで出てくる。

 というわけで、なんでミステリの賞をとれたのかなといぶかしみつつ、☆☆☆★といったところです。

『魔都シカモア』イアン・ロジャーズ、風間賢二 (訳)、 新潮文庫、2024、2026――魔界の中の私立探偵

 紹介分の「異世界ダーク・ファンタジーにして正統的なハードボイルド小説、さらには特殊設定もののフーダニットでもある、異能の私立探偵が活躍する最先端の傑作ミステリー!」にひかれて購入。

 私立探偵フィリックスのもとに夫を探してほしいという妻の依頼を受けて調査するという私立探偵ミステリの王道から始まって、魔界に訪れて調査を行うというストーリー。

 私はファンタジーやSFは得意ではないものの、本書は私立探偵ものということで、勢いで読んでしまった。とはいうものの、そういう人にとっては☆☆☆というところです。

『目には目を』新川 帆立、角川書店、2025――綱渡りをしているかのような

 昨年のいくつかのランキングでベスト10に入っていたので、おそらくは新しいアイデアがうまくいったミステリなのだろうと予測して読んだら、まさしくその通りだったミステリ。

 とにかく読者の予想を裏切る展開にすることを徹底している。そしてその試みは成功している。作者はトリックを用いても、読者の気分が悪くならないように細心の注意を払っている。しかし、中途まではストーリーが退屈で読み進むのに苦労したというわけで☆☆☆★というところです。

『未来を照らす、灯りをつくる。: アニメの制作会社が自立するために~アニメーション制作会社・P.A.WORKS 25年物語』株式会社ピーエーワークス (著)、地域発新力研究支援センター、2025――アニメ会社の変化する社会に合わせた一般企業化

 アニメ制作会社のP.A.WORKSの作品解題などを含むノンフィクション物語かと思っていたら、P.A.WORKSの経営をどのように行ってきたか、を述べているもので、ビジネス書に近い。

 日本の企業はデジタル機器の導入されて、インターネットが普及してから社会が変わりその対応に追われている。この中で共通しているのは、どのように人を育てるかだ。デジタル機器の導入は仕事内容を教えるときに徒弟制度的な側面で育ててきた旧い考え方を一掃した。加えてそれまでペーパーなどで目に見えていた育ち方マニュアルをブラックボックスにした。加えて育てるシステムを構築しなければならないのに多くの企業は体力的に余裕がなく、システム化が構築できなかった。構築したとしても、ほかの余裕のある企業に転職していった。これらに加えて少子化が、旧企業で30代~40代に消えてしまった理由である。

 アニメ業界も同じであったことが、本書でわかる。代表の堀川氏、アニメ監督の吉原氏の二人の創業者がそれらに対して、原作付きでないオリジナルアニメを制作するためにどのように企業を四苦八苦して変貌・構築していったを述べる。例えば、アニメーターの社員化などだ。

 その企業システム構築は、一般企業にとっては普通のこともあるが、フリーランスが多かったアニメ会社にとっては、クリエイティブと引き換えにすることもあるので、非常に大きな意識改革が必要だったと思われる。

 なお、P.A.WORKS作品に対する感想は、『花咲くいろは』『SHIROBAKO』『有頂天家族』が代表作だと思います。とくに『SHIROBAKO』は傑作だと思う。作画がものすごくいいときはあるけれどストーリーがしょぼいことが多いのは残念。少女漫画的感性と人情噺がうまく結びついた時が好きなので、そのような作品を期待しています。

『夜が少女を探偵にする』マリー・ティアニー、能田 優訳、新潮文庫、2024、2026――ミステリじゃない

 英国作家の処女作。タイトルがいいし、表4のあらすじも面白そうで、賞の候補になるなどしているので、新作ながら手にとりました。

 とはいうものの、ミステリではなく、単なるサスペンス小説でした。何も考えずに読めるぐらい非常に読みやすく、リーダビリティはあるのですが、いかんせん謎解き要素がまったく皆無。とうわけで、☆☆☆★といったところです。