ミステリを読む マンガを語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。専門書について語らないのでタイトル変えました…

『AMETORA(アメトラ)―日本がアメリカンスタイルを救った物語』デーヴィッド・マークス、奥田祐士訳、DU BOOKS、2015、2017――文化がグローバル化していく過程

 Amazonの書名には、サブタイトルとして「日本人はどのようにメンズファッション文化を創造したのか?」と入っているけど、実際の書名には入っていません。ひょっとしたら、帯なのかも。

 このノンフィクションは、アメリカンファッションを「アメトラ」と総称して紹介してビジネスをしてきた者たちがいて、それがアメリカで消えてしまったが日本に残ったため、消えてしまったアメリカンファッションが逆輸入されたという物語を示したものです。

 この中で大きな役割を担ったのが、雑誌の「POPEYE」だったことを章を割いて詳しく説明されています。

 流行のアメリカンファッションを紹介してやろうとしていた編集者やカメラマンが、本場に行ったら、まったくファッショナブルでなかったので、高い取材費を無駄にするわけにはいかないからと、少数のいけてる大学アメリカンファッションを紹介して、アメリカン・物・カタログを出版して、ヒットを飛ばし、日本の流行を作ってしまったと紹介されています。

 読んでみて、そりゃそうだよね、と思うよね。だって、日本の編集者が1週間ぐらいアメリカに行って、流行をつかめと言われて、そうそう簡単にできるわけないものね。当時の読者も半分はそう思っていたんじゃないかな。

 ここで思い出されるのが『証言構成ポパイの時代―ある雑誌の奇妙な航海』という「POPEYE」の編集者・デザイナーたちに「POPEYE」という雑誌がどのようにできたのかを証言したノンフィクション。

 わたしは、このブログにこの本の紹介をしていたかと思っていたけど、検索しても見つからなかった。だから、ついでに紹介しておくけど、本書は雑誌好きにとっては、非常に面白い歴史が語られていて、できれば筑摩書房あたりで文庫化してほしい一冊。電子書籍もないしね。

 本書の『AMETORA』だけど、IVYだけでなく、ジーンズなどほかのアメトラについても語られていて、著者は「文化がグローバル化していく過程の、大いに具体的な実例となる」(p.ⅩⅦより)と結論付けています。

 非常に同感なのですが、これらを知っていくと、ネット以前というものは、優秀な編ごく一部の人々が大勢を動かしてきたのだと、どういうわけかわからないけれど、非常にガッカリもしてしまうわけです。しかし、今もトランプが世界を動かしているか…。

『漫画でイけ』鳥 トマト、文藝春秋、2026――新人漫画家における編集の存在とは

 鳥トマト氏のマンガはネット上に流れてきたもの、『俺のリスク』を読んでおり、感想はというと、いつブレイクしそうな、例えば柴門ふみのようになるのではないか、気になる作家です。

 柴門ふみは、『P.S. 元気です、俊平』『女ともだち』で人気になって、次が気になる作家でしたが、何度か苦戦して、このルートではダメかもしれないというところで、「スピリッツ」で『同・級・生』で大衆作家になりました。鳥さんも同じようなルートになるのでは、と期待していたのですが、本書は、鳥さんの私小説であり、今の時代でマンガを描くということの愉しみや苦しみを描いており、そのルートに乗ることはないのではと思いました。

 2つの中編小説が収録されていて、「漫画でイけ」は主人公の新人漫画家の若い女性が、すでに売れている漫画家のアシスタントをしていて、優秀な男性ベテラン編集者を紹介して、連載を果たすものの……という話で、「僕の血」も若い漫画家が主人公で、優秀な女性編集者のもとで連載準備を始めたものの……という話で、どちらも編集者がからむ。

 ちょっと意外だったのが、編集者への評価です。編集者に一度会っただけで、その短編を作成してしてしまうほどとは、これほど作家に影響を及ぼすものだとは思いませんでした。とにかくマンガ好きには必須の小説です。•

 しかし、鳥トマトさんの作品の根底には「親が嫌い」というテーマがあるため、それを根本的に理解できない層がどうしても一定数存在し、結果として好みが激しく分かれてしまうんですよね。

『盾と矛』方丈 貴恵、KADOKAWA、2026――解決ドミノ倒しの一バージョン

 書店で帯などで惹かれて購入。依頼された事件を解決する探偵と犯人の依頼を受けて事件を隠蔽・捏造して犯人を無罪にするヒミコという、探偵対仕事人という対決もので、この面白さに慣れるまで時間がかかる。

 読者としては、ミステリなので、作者が仕掛ける事件に対して推理していくのであるが、事件はあっさり探偵によって解決される。ここで読者との対決があればいいのだが、必要最低限の情報しか書かれず、推理するに足る十分な描写があまりないため、読者にとっては、それはずるいと感じさせてしまう。

 事件の解決の前提を崩すのがヒミコで、なるほどここは面白い。探偵が事件を解決したが、情報が足りなかっただけで、実は別の真相が明かされ、さらにそれも解決したが、再度別の真相が明かされるというドミノ倒しのようなミステリがあるが、その新機軸といえるだろう。

 この欠点は、読者が推理合戦に参加できないことにある。というわけで、☆☆☆★(3.5)というところです。

 人物がすべて苗字しか出てこないため、最初は誰が誰だかわからず、キャラクターの区別ができない。私の物覚えが悪いためだけど、フルネームを用いてもよかったのではないだろうか。

『魔術の古代世界―「古代ギリシア語魔術パピルス」を読む』 前野弘志、角川新書、2026――古代の魔術のアンチョコ

 古代ギリシア語魔術パピルス文書群とは、紀元前1世紀から紀元後6世紀頃の古代エジプトにおいて、主にギリシア語で書かれた魔術の儀式や呪文をまとめた実在の古文書群のことという。当時の人々が日常で使っていた「魔術のマニュアル(ネタ帳)」のようなものとされます。

 その文書は、儀式の指示、唱えるべき召喚・呪文・祈願・讃歌、書くべき記号・図像・絵文字、効き目の宣伝文句などで構成されており、本書では、12のパピルス文書について、解説をしています。

 私は本書を読むまで、まったく知りませんでした。非常に中二病的に魅力的でクリエイターにとっては必須の資料となるでしょう。

 本書の最後に初出一覧が掲載されていて、ほとんどすべての原稿が専門誌の論文を元ネタにしていて、それを新書用に著者が書き換えているのですが、編集者はそれをみて依頼したのですかね? そうだとしたら凄いですね。

『真田太平記(一)天魔の夏』池波正太郎、新潮文庫、1974、1987――本能寺の変まで

 アマプラで観た『真田丸』が面白かったので、久しぶりの池波正太郎を手に取りました。20年以上ぶりです。やはり面白く、一気読みです。『真田丸』と同じ武田軍が織田軍に追われるところから始まり、本能寺の変までが本書の範囲。源二郎はこのとき16歳だったか…。

 なんといったらいいのか、「小説」ではなく「講談」なんだなと感じます。これから1年かけて読み切ります。

『名探偵ジェリコ』ウィリアム・ハッセー、矢口 誠訳、文春文庫、2023、2026――英国ネオ本格ミステリの系譜の流れの中で

 作者は2010年デビューでヤングアダルト系の作品を出して、本書で一般向けの探偵小説で成人向けの第1作目を発表したとのこと。Amazonの紹介文では、

イギリスのミステリ通が選ぶFingerprint賞受賞作。ほか2つの英国ミステリ・フェスで最優秀作品賞候補に。ホロヴィッツ、クレイヴン、タートン、ハレットら英国ネオ本格ミステリの系譜に新たに名を連ねたウィリアム・ハッセー。

と書かれているけど、英国ネオ本格ミステリとは初耳。それにひかれて手に取っただのだからね。

 元刑事のジェリコは移動遊園地のショーマン(興行師)をしており、キャンベル教授から、探偵として、3件の別々の殺人事件の捜査をしてほしいという依頼を受けた。その殺人事件はバラバラだが、つながりのあるものではないかというのだが…

 なるほど最初は謎解きミステリというよりも、刑事時代に容疑者に暴行事件を起こして刑務所に服役し探偵を始めた元刑事という設定はどちらかというと私立探偵小説の形式で、その探偵に殺人事件の解決を依頼するという、その刑事の経歴をすべて知っている謎の大学教授は、昏い謎解きミステリの設定に流れ込む。

 自分の元恋人の男と一緒に捜査を始めるのは、謎解きミステリという溶離も、青春小説や文学的すらも見られて、ちょっとノイズになったかな。

 謎の解明そのものは、私的には、「それはないだろう」「クリスティだって、それはやらなかったよね」というもので、ちょっと読みづらいのもあって、☆☆☆★(3.6)というところだね。作者は、ミステリ的なものだけにしたくないという感じがして、私にはマイナスだったな。

『余命一週間の探偵として』ホリー・ジャクソン、服部京子訳、創元推理文庫、2025、2026――こんなめんどくさいストーリーで長尺の作品を書けるよな

 本作はホリー・ジャクソンの7作目の作品って、いまWikipediaみたら33歳ってほんとかよ。めちゃくちゃ若いじゃないかよ。そりゃあ、こういう作品を書けるよな。

 読み終えての第一の感想は「よくもまあ、27歳の女性を主人公にして、こんなめんどくさいストーリーで長尺の作品を書けるよな」であった。読むほうもしんどいのに作者だったしんどいはずだ。しかし33歳なら別だ。若さが書かせているのか。

 27歳の主人公ジェット(マーガレット・メイソン)は、ハロウィーンの夜に街から戻って、自宅のドアを開けて中に入った直後、背後に潜んでいた何者かによって不意を突かれ、後頭部を激しく殴打された。犯人は合計3回にわたって彼女の頭部を激しく殴りつけ、2回目の打撃は彼女がまだ立っているとき、3回目は彼女が床に倒れ込んで意識を失ってから振り下ろされた。

 ジェットは2日後に奇跡的に目を覚ましたが、医師から殴打の衝撃によって脳の深い部分に動脈瘤が形成されており、それが数日中に確実に破裂して死に至ると宣告された。手術の成功率はわずか10%のなか、ジェットは手術を拒否し、「自分が死ぬ前に、自分を殺そうとした犯人をこの手で暴く」と決意する。

 残された命のリミットはわずか1週間で、いつ破裂するかわからない爆弾を脳内に抱えながら、ジェットは幼なじみのビリーとともに、身近な容疑者たちを相手に命がけの捜査を開始した。そこで犯人として逮捕されたのが、元ボーイフレンドのJJで、ジェットはJJが犯人ではないと確信した。

 小さな町なので、関係者を訪ねていくと、自分の身の回りには、誰もが容疑者に思える事情があった…。

 主人公のジェットが20歳ぐらいに見えて、中途で27歳と紹介されて、ちょっと驚いたものの、誰もが犯人として怪しいと感じさせるストーリーは抜群で、私としてはまんまと作者に翻弄されてしまった。また、このパターンかと思わせるところもあったけど。というわけで、犯人の意外性が上々で、☆☆☆☆といったところです。