ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

2011-01-01から1年間の記事一覧

『天外消失』クレイトン・ロースン, フレドリック・ブラウン, ジョン・D・マクドナルド, ジョルジュ・シムノン, 他, 早川書房編集部・編、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2008

私は、本書の中の数編はすでに読んだことがあります。それは、本書の原本である『世界ミステリ全集』の最終巻『37の短編』です。高校生の頃、海外ミステリを意識的に基礎的な名作・傑作を読み進めていたのですが、高校から自宅まで遠回りするとある図書館で…

『二流小説家』デイヴィッド・ゴードン, 青木千鶴訳,早川書房,2010→2011

表4の本書紹介文には、「ポケミスの新時代を担う技巧派作家の登場! アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞候補作」とありますが、同じポケミスの『記者魂』にかっさられてしまいましたね。でも、これはいいよ。本当に。私の好み。デイヴィッド・ハンドラー…

『出版大崩壊――電子書籍の罠』山田順、文藝春秋、2011

オビの表4が「既存メディアの幻想を打ち砕く!」で編集担当者の趣味がわかりそうなのが楽しい。タイトル通り、これまでの出版システムが崩壊するであろうというもの。電子書籍も日本では厳しいのではという著者の考えで、うなずくところ多しです。音楽でも映…

『こころの科学156号 特別企画=うその心理学』松本俊彦編、日本評論社、2011/02

本書は、「病名のうそ」「病気喧伝」「精神鑑定とうそ」「嘘つきとサイコパス」「発達障害とうそをつく能力」「解離とうそ」「薬物依存症とうそ」「自殺未遂者とうそ」「ギャンブラーはうそつきか?」「ホームレス者のうそ」「性的マイノリティとうそ」「性…

『ブラッド・ブラザー』ジャック・カーリイ, 三角和代訳,文藝春秋,2008→2011

謎解きミステリ作家として評判の高いジャック・カーリイの第4作目の新作。評判にかられて読んだのだけど、うーん、イマイチわからなかった。そんなに素晴らしい作品なのでしょうか? 普通のレベルのミステリだと思うのだけど……。☆☆☆★というところです。やは…

『嘘から出た死体』A・A・フェア, 田中小実昌訳、早川書房、1952→1961

私立探偵のバーサ・クール&ドナルド・ラム・シリーズの第13作目の作品。比較的中期のようです。ポケミスのみで文庫から出版されていません。 ある銀行家の息子が自らのアリバイのために、モテルに一緒に泊まった二人の女を捜してしてほしいという依頼があっ…

『憎悪の化石』鮎川哲也,元推理文庫,1959→2002

鮎川哲也の長編第5作目の作品。第13回日本探偵作家クラブ賞受賞作。端正な謎解きミステリです。 熱海の旅館で外出せずに長逗留していた、湯田真壁という男が、その旅館の部屋で心臓を2回刺されて殺されたところを発見された。湯田の残していた鞄の中身から、…

『トラブルなう』久田将義、ミリオン出版、2011

著者は、あの『実話ナックルズ』元編集長。私は『実話ナックルズ』をほとんど読んでいないのですが、まあ編集者のトラブルへの対応方法を知りたい思って購入。「はじめに」に著者の言葉として「編集者とは恫喝、脅迫、恐喝、暴力、拉致、などに耐えうる者の…

『死にぎわの台詞』レジナルド・ヒル, 秋津知子訳,早川書房,1984→1988

ダルジール警視シリーズ第8作目の作品。ある11月の夜、三人の老人が殺害された。一人は入浴中に頭から打撲や切り傷を受けて血を流して湯船に横たわっていたところを発見された。もう一人は、自転車に乗って車にはねられた。彼も頭部を殴られ、切り傷をもっ…

『看守眼』横山秀夫、新潮社、2004→2009

横山氏のバラエティ短編集。「看守眼」「自伝」「口癖」「午前五時の侵入者」「静かな家」「秘書課の男」の6編。それぞれ読ませてくれます。とくに、小市民的というか、他人には大した苦悩ではないのですが、本人にとっては大変な苦悩を体感させてくれます。…

『脳の科学史―フロイトから脳地図、MRIへ』小泉英明,角川マーケティング,2011

著者はMRIやfMRIなどを開発してきた脳科学の第一人者。私も学会などで何度か講演に参加してきて、一度は著者として依頼してみたいと思っていました。最初の講演内容は忘れてしまいましたが、感動したことだけは憶えています。 本書は、脳科学の歴史を俯瞰し…

『バースへの帰還』ピーター・ラヴゼイ, 山本やよい訳,早川書房,1995→2000

ピーター・ダイヤモンド警視シリーズ第3作。英国推理作家協会賞シルヴァー・ダカー賞受賞作。私は、『最後の刑事』『単独捜査』を読んでいると思うのですが全く内容の記憶がありません。ダイヤモンドのキャラクターの造形がチグハグで、はまらないなあと感じ…

『原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史』有馬哲夫、新潮社、2008

CIAに現存する「正力ファイル」に記録された、日本にどのようにして原発が導入されたか、その経緯を述べたもの。佐野眞一氏の傑作『巨怪伝―正力松太郎と影武者たちの一世紀』から引き続いて読むと面白さ抜群です。『巨怪伝 外伝』といってもよいでしょう。 …

『わが職業は死』P.D.ジェイムズ, 青木久恵訳,早川書房,1977→2002

ジェイムズの第7作目の作品。ダルグリッシュ警視長もの。読み飛ばしをしてしまったためか、ラストシーンが唐突のように感じてしまい、☆☆☆というところ。密室トリックをどう評価するかでしょう。トリックはいたって平凡ですが、伏線はきちんと張られているの…

『ゴールデンタイム 第3巻 仮面舞踏会』竹宮ゆゆこ, 駒都えーじ,アスキーメディアワークス,2011

竹宮ゆゆこ氏の新作。うーむ、新作を楽しみに待っているなんてこのシリーズだけだな。このシリーズは、『田村くんシリーズ』や『とらドラ!』と比べると、作者が何を狙いにしているか、いまいち伝わって来ません。少しもどかしい感じがします。 主人公の多田…

『重力ピエロ』伊坂幸太郎、新潮社、2006

本作は伊坂氏の四作目の作品にして出世作。それまでマニア筋に注目を浴びてはいたものの、ミステリファンにまでは浸透していませんでしたが、本作でミステリファンに認知されました。さらに編集担当者がつけたと思われる印象的なオビにより、一般の人々にま…

『そして赤ん坊が落ちる』マイクル・Z.リューイン, 石田善彦訳、早川書房、1988→1997

リューイン11作目の作品。主人公がソシアル・ワーカー(ソーシャル・ワーカーのことでしょう)のアデル・パフィントンという女性で探偵役となっています。 アデルは民間の福祉事務所に勤めていた。ある夜、アデルが仕事をしていたところ若い強盗の男が侵入し…

『JAL崩壊』日本航空・グループ2010、文藝春秋、2010

日本航空の現役・OBの客室乗務員が、社内の実情を暴露したものとして、面白そうかなあと思い購入したものの、この程度の崩壊状況はどの会社にもあることじゃないの、と進めば進むほど訝しく感じました。まあ、爆笑本です。複数の著者が執筆しているのですが…

『13階段』高野和明、講談社、2001→2004

このほど直木賞の候補になった高野氏の江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作。歴代の乱歩賞のなかでも評判が高く、映画化もされています。 傷害致死で2年間服役していた27歳の三上が出所した。しかし、三上の犯罪による損害賠償金のため家族は借金を背負い、決…

『クリスマスのフロスト』R・D・ウィングフィールド, 芹澤恵訳、東京創元社、1984→1994

再読です。次々と翻訳される作品が年間ベストランキングの上位になる、フロスト警部シリーズの第1作目。本シリーズは、他のシリーズと比べて「異常に」楽しく面白いのは何故なのか。それを考えるための再読しました。 アレンは二度ほど深呼吸をしてから、椅…

『シュガータウン』ローレン・D.エスルマン, 浜野サトル訳,早川書房,1984→1986

デトロイトを舞台にした、私立探偵エイモス・ウォーカー・シリーズ第5作目の作品。ポケミスで最も早く翻訳された作品だったので、てっきり処女作だと思っていました。 オビに「チャンドラーの心を継ぐ正統派――私立探偵小説大賞受賞」とあり、まあこれは新鋭…

『物語の命題―6つのテーマでつくるストーリー講座』大塚英志、アスキー新書、2010

大塚氏の一連のストーリー作りマニュアルの一冊。マニュアル本や学習書というのは、学ぶ方のレベルに合わせなくてはならないため、そのレベルではない人にとっては役に立たず批判を浴びてしまうものですが、本書はストーリー作成の初心者のためのものとなっ…

『封印再度』森博嗣、講談社、1997

S&Mシリーズ第5作めの作品。岐阜県の旧家の高齢の画家が蔵の中で血まみれで死んでいた。殺人とも思われるが、蔵が密室であったことから自殺にも考えられた。その高齢画家の娘と友人であった西之園萌絵は事件に興味をもつ。昔、その高齢画家の父親も同じよう…

『ブラックペアン1988』海堂尊、講談社、2007、2009

本書はミステリではなく、ある大学病院外科学教室でのドラマです。1988年東城大学総合外科学教室に、帝華大学のビッグマウスの講師の高階が送り込まれてきた。高階は新しい外科器具を用いれば、食道がん手術を今まで以上に簡単に行えると主張し、佐伯教授ら…

『憑霊信仰論――妖怪研究への試み』小松和彦、講談社、1994

サブタイトルにあるとおり妖怪研究の鳥羽口になった論文集。さまざまな文献とフィールドワークから表面的な物事の裏に何が現象として生じているかがきわめて論理的に述べられており、まるでそれは名探偵が推理を披露するかごときのものです。かつ新しい分野…

『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』スティーグ・ラーソン, ヘレンハルメ美穂, 岩澤雅利訳,早川書房,2005→2008

話題のスウェーデン産ミステリ。陰謀+推理物で展開はオーソドックス、エンタメど真ん中の作品。発売当初の書評では自分には合わないとスルーしていたのですが、その後の評判の良さに、また一般での無視のされっぷりに、逆に興味をもちました(でも、それは…

『涼宮ハルヒの分裂』谷川流, いとうのいぢ,角川書店,2007/『涼宮ハルヒの驚愕 初回限定版(64ページオールカラー特製小冊子付き)』谷川流, いとうのいぢ,角川書店,2011

涼宮ハルヒシリーズ最新作。『分裂』の発行が2007年、そして続編の『驚愕』が2011年と4年後にようやく発行されたものです。 ハルヒ・シリーズは人気があるわりには、ドラマというか、なんと言ったらよいか、派手な展開やアクションが多くありません。ハルヒ…

『月刊アニメスタイル 第1号』グッドスマイルカンパニー、2011/05

「とらドラ!」の特集のための購入。インタビューが中心で、すごい読み応えのある雑誌でした。『アニメスタイル』ってどこかで見たことがあるような…と少し調べてみたら、2号で一度中断していると知って、ずいぶん前に盛岡に杉井ギザブロー氏のインタビュー…

『門番の飼猫』E・S・ガードナー, 田中西二郎訳,早川書房,1935→1977

ここ数年、自分が読みたいミステリ小説がなくなって探すのに難儀しています。一匹狼で貧乏な私立探偵、あやしげな依頼人、失踪人や宝物の探索、真実か嘘か分からない供述をする関係者への聞き取り、そして意外な犯人というシンプルなストーリーを読みたいと…

『凡人として生きるということ』押井守、幻冬舎、2008

『勝つために戦え!〈監督篇〉』と『勝つために戦え!〈監督ゼッキョー篇〉』がやけに面白く、今でもたびたびつまみ読みをしているので、それに似た本書を購入したわけで。オヤジ論、自由論、勝敗論、セックスと文明論、コミュニケーション論、オタク論、格差…