ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『月の扉』石持浅海,光文社,2006-04(○)

月の扉 (光文社文庫)

月の扉 (光文社文庫)

 那覇空港で,男2名,女1名は乳幼児を人質にとって,旅客機をハイジャックした。彼らの要求は,不当逮捕された「師匠」と呼んでいる男を22時30分まで,彼らの眼前に連れてくること。そんな中,人質の一人の女性がトイレで死体で発見された。自殺なのか他殺なのか不明である。ハイジャック犯は乗客の一人に解明するように命令する。ハイジャック犯たちの本当の目的は何なのか? 航空機内の殺人の犯人は誰なのか? 幻想味が加味された謎解きミステリ。

 このミステリを評価するか,評価しないかは,読者のミステリに対して何を求めているか,試されているような気がします。私は先日の『秘太刀馬の骨』については,非常に評価しました。しかし,謎解きという観点でみると,曖昧な点が非常に多く,評価はできないといえるでしょう。それでも,私が評価した理由は,それにもかかわらず,カタルシスを得られたからでした。驚きがあったからです。凡作でしたら,内容が曖昧であるだけで,カタルシスを得られるものではありません。

 さて,本書ですが,残念ながら,私にとってよいカタルシスを得られるものではありませんでした。そのような意味ではあまり評価できません。このような感想は,現代謎解きミステリの多くの作品にも同じように持つものです。しかし,本作を評価する人は多くいます。それは何故なのか。少し考えてみたいと思います。