ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『駈け出した死体』E.S.ガードナー,田中西二郎訳,早川書房,1954→1977(○)

駈け出した死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

駈け出した死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 弁護士ペリイ・メイスン・シリーズ第48作目の作品。シリーズそのものは全86作ですから中期の作品といえます。検死医ニューバー博士(ブラック・ダリア事件を担当した)に捧げる献辞である「まえがき」から,冒頭の依頼人の登場,「駆け出した死体」という不可思議性,中途のサスペンス,ちょっとしたどんでん返しまで,スピーディな展開で期待を裏切らない出来です。むしろ,今読むからこそ,安定したレベルを保証されていることに,貴重さを感じます。

 メイスンのもとに,夫に殺人犯であると訴えられている妻とその伯母がやってきた。その妻は大資産家の叔父から遺産を受け継いでおり,その叔父の殺人も関与していると訴えている。まったく覚えがないという。メイスンは,その夫のところへ向かったのだが,その夫は死んだという。病院に行くと,夫がパジャマ姿のまま,窓から抜け出し,失踪したとのことだった。死体だった夫は生きていたのだ。しかし,その後,夫は埋められて死体で発見されたのだが…。いったい誰が犯人なのか?

 驚くべきことに,このペリイ・メイスン・シリーズも現在簡単には手に入れることができなくなっています。現在の膨大な出版量を考えますと,以前に比べて,一作あたりの部数が落ちていますので,現在発売されている作品を10年後に読みたいと思っても,今以上に手に入れることは困難になるでしょう。