ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『恐怖の掟』マイクル・コリンズ、村杜伸訳、早川書房、1966→1979

 隻腕探偵ダン・フォーチューン・シリーズの第1作目でアメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞受賞作。私にとって、マイクル・コリンズは初物であります。このシリーズ名は知識としてもってはいたのですが、ミステリやハードボイルド物の名作など推薦作として挙げられることが全くなかったこと、また文庫になっていたかったので、よくあるネオ・ハードボイルドの過去に埋もれるべきシリーズとして手にとってこなかったのです。それで、今回は、手にとったのは、近所のブックオフで350円で売られていたこと。そのときは、3桁台のポケミスがたくさん売られていて、そのなかの一冊でした。

 そんなわけで、ほとんど知識がなかったので、本書は、正当な定型の私立探偵小説で非常に面白く驚きました。このて「定型」ですが、一人の私立探偵がおり、冒頭に捜し物の依頼を受け、関係者を丹念に追い、その過程で殺人など事件が起こり、そして捜索の妨害を被りつつも、捜し物を見つけ依頼人に差し出し、事件の全体像が提示されるということです(もう一つ要素がありますが、ネタバレになりますので伏せておきます。まあ、ハメットの時代から変わらないことであります)。それに当てはめられる物語であれば、誰もが楽しめるということですね。

 4日前から失踪した少年ジョ=ジョ・オールセンを探して欲しいという依頼をその親友のピートが、50ドルでわたしに依頼した。ピートはパトロール警官のステッティンが強盗に襲われた事件のオールセンの仕事場の近くだったこと、その翌日に失踪したことなどから関連性があると示唆したのである。2日間関係者に聞き込みをしたが誰もオールセンについて知らなかった。調査中、見知らぬ大男に「ジョ=ジョから手をひけ」と襲いかかられた。それはジョジョの父親だった。家族を訪ねると、ジョジョの身の安全よりも自分自身の安全を心配していたのである。その翌日にはニューヨーク市警の警部ガッゾーが、ジョジョが失踪した日の前日に起こったコーラスガール射殺による殺人事件の捜査で訪ねてきたのである。どうやら、ジョジョが容疑者らしい…。そして次に、二人の男にパートが暴行を受け入院した。一連の事件には、第三勢力があるのではないかと疑う。

 一人の人間の物語は、彼がそもそも何であるかということだ。彼が知っており、愛し、憎む人たち。彼が呼吸する空気。彼がぜんぜん知らない、見知らぬ者たちの存在。そいつらを吹きとばすためにただ一閃の火花を待つばかりの複合体のすべて。物語はその複合体であって、爆発する火花そのものではけっしてないのだ。そうしてジョ=ジョの物語はわたしの物語なのだ。わたしを抜きにしては、別個なものたたりになっただろう。(37ページより)

 このような、何とも世の中を突き放した述懐を主人公がしばしば行うように、キャラクターも癖がなく正統派で好ましく、☆☆☆☆でございました。

恐怖の掟 (ハヤカワ・ミステリ 1081)

恐怖の掟 (ハヤカワ・ミステリ 1081)