ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

競馬題材に推理小説 ディック・フランシスさん死去

 ディック・フランシスが亡くなったとのニュース。残念で哀しいといえば哀しいし、年齢的に大往生ならば良かったと思う。

 ディック・フランシスの作品を初めて手にとったのが、高校2年のときで『本命』だった。『本命』の霧の中から馬が駆ける音が響く印象的なオープニング(未だに印象的です)からラストシーンまで一気読みし、それまで読んでいたアメリカン・ハードボイルド小説の主人公とは異なる、意思をもってい主人公に魅了されたものだった。なんせ物語に集中してしまったゆえに、電車通学で降りるべき駅を通り過ぎてしまったくらいだ。それから、かたくなに発表年ごとに文庫で『横断』までは読んでいる。ひところは、郵便に面白いミステリは何か訊かれると、ディック・フランシスの『本命』『興奮』を勧めまくったものである。

 フランシスの魅力は、まず主人公の造形である。単なる高貴な性格をもっているのではなく、元騎手で庶民からのたたき上げでありながら、陽的な性格をもっているところである。そのため、多少の悪といったらよいのだろうか、人間の負の部分も持ち合わせていた。そのようなキャラ造形は日本の小説にはあまり見かけなかったので(日本の小説であると「負」の部分が強く出されてしまう)、新鮮であった。

 また、なんといっても悪役の造形である。これは、宮崎駿氏に匹敵するといってもよい。読むたびに「なぜ、障害を負った腕に鞭を喰らわすなど、このような、あっけらかんな、そして魅力的な悪役を提示できるのだろう」と感心したものである。もちろん、ミステリ的なストーリー展開も、きちんとクライマックスを用意し完全燃焼するなど、エンタメの見本のような作品が多かった。トリックなどもよいものが多いし。――でも、こう考えてみると、ライトノベルのようだね。

 フランシスのいくつかの作品は、きちんと後世まで読まれるべきだと思う。そのくらいの作家である。……後期の作品はこれから少しずつ読みます(でも初期作品の再読もありだな)。

http://www.asahi.com/obituaries/update/0215/TKY201002140319.html