ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『本のお口よごしですが』出久根達郎,講談社文庫,1994

 ご存じ古本屋主人の名エッセイ集。少し軽いエッセイを読みたいと手にとったのですが、うーん、100以上ある単文がそれぞれ軽そうに見えて渋みのあるエピソードで読み飛ばすことができず、時間がかかってしまいました。

 そのなかの「予言」というタイトルの寺田寅彦の面白い文章を紹介するエッセイで、

 博士はこんな予言をする。近い将来、種々のフィルムが書店の商品の一部となって出現するだろう。「近ごろ写真ばかりの本のはやるのはもうこの方向への第一歩とも見られる」(187頁より)

 と紹介しており、フィルムとはいわないまでも、データになってしまうだろうなあと思ったり。まさか、書店を経ることなしに読者に届くとは思わなかったんだろうな、と思ったり。

 また、「手塚治虫ブーム」では、昭和48年に古書店の開店祝いに知り合いから『メトロポリス』『奇蹟の森のものがたり』『拳銃天使』の三冊をいただいて、当時の三島由起夫の『仮面の告白』と同様のレベルの一冊一万円を当てずっぽうにつけたところ。

 私は考えたすえ一冊一万円の売価をつけて、同人であった某古書店に出品した。目録でこれを見た同業者が、無茶な値段だと非難した。ソバのモリカケが百五十円のころの一万円である。(中略)
 ところが目録の反響に驚いた。くるわくるわ、非難でなく注文殺到である。(中略)
 そしてまもなく手塚ブームが巻き起こった。彼の処女著作『新宝島』が百万円で売り出され、たちまち売りきれた。(198〜199頁)

本のお口よごしですが (講談社文庫)

本のお口よごしですが (講談社文庫)