ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『血の探求』エレン・ウルマン, 辻早苗訳,東京創元社,2012,2014

 最近の新刊の中では評判がよかった作品。

 あるダウンタウンのオフィスを借りた求職中の大学教授。ある日そのオフィスにいると隣の部屋から精神分析医が精神分析療法を行っている声が聞こえてくる。一人の女性が精神分析療法を受けているらしい。盗み聞きをしていると、若い女性が患者で本当の母親の不在に苦しんでいた。大学教授はその母親を捜すきっかけとなる調査を行い、匿名で調査報告を文書で送る。それをもとに、その患者は自らの母親に会いに行くだのが…。

 本編がすべて、隣の部屋のセラピーからの聞き書きというスタイルで、患者の話がほとんどで、会話ばかりでした。ミステリと言うよりも、奇妙な話の文学に近く、読後感はベルンハルト・シュリンクの『朗読者』と同じです。長い分だけ『朗読者』には負けます。しかし、第二次世界大戦の知らせざる話としては、日本の秘話とリンクしていて、どこにでもあることなのだな、と思いました。ラストも皮肉がきいています。蛇足という人もいるだろうけど。というわけで、☆☆☆★というところです。

血の探求

血の探求