さすが『長いお別れ』の続編で、原著発行直後の翻訳出版です。早川書房が他社に版権と取られてたまるか、というような印象を受けます。
いかにもチャンドラーのマーロウ物語のパスティーシュという感じがしていて、非常に好感がもてました。また、当時のハードボイルド小説の雰囲気がうまく醸し出されています。
あの電話がかかってきたシーンでは「うーん、これぞチャンドラーの味、懐かしい!」と唸ってしまいました。いま、あの味わいを感じさせるのは、ローレンス・ブロックぐらいでしょうか。
これを読むと、原寮氏の沢崎シリーズは、チャンドラーの一側面を受け継いでいたことがわかりますね。沢崎シリーズにはチャンドラーにはない、素晴らしき長所がありますから、どちらがよいというのはないのですが。
カバーには「『ロング・グッドバイ』の公認続篇」と書かれていますけど、翻訳者が小鷹氏のためなのかわかりませんが、『長いお別れ』というほうがしっくりします。
もう一つ気になったところで、本作ではしばしば「何度も」ストーリーの内容について、キャラクターが解説しています。たとえば174頁では警官のバーニー・オールズが「このピーターソンという男を捜して嗅ぎ回ったのはお前だ。そして今、彼の妹が死んだ。これが結びつきでなければ何だ?」とマーロウに聞きます。このようなことはチャンドラーは決してしませんでした。このようなシーンが何度もあるのは、作者の本意ではなく、出版社あるいは代理人の要請なのでしょう。これがなければ、ストーリーがわからなくなる読者が大勢いるということなのでしょうね。
というところで、チャンドラーのファンには☆☆☆☆というところです。しかし、そうでない人にとっては『長いお別れ』『ロング・グッドバイ』を読んでからのほうがよいでしょう。
それにしても、ベンジャミン・ブラックというペンネームも外国人お笑いコントでいわゆる「インチキ外国人」として用いられる名前ですなあ。ベンジャミンというだけで、少し笑ってしまいますね。英語圏でも同じ扱いなんでしょうかね?
- 作者: ベンジャミンブラック,Benjamin Black,小鷹信光
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/10/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (5件) を見る