ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『カインの娘たち』コリン・デクスター, 大庭忠男訳,ハヤカワポケットミステリ,1994,1995,☆☆☆――海外では珍しいアリバイ崩し

 本書を100頁ぐらいまで読み進めたところで、前作の『森を抜ける道』を読み飛ばしてしまったことに気づく。本書はモース警部シリーズ全12作中第10作目の作品。

 モースは、他の者が担当していた殺人事件――67歳の古代歴史家のフェリックス・マクルーア博士がフラットの一つの自宅でナイフで惨殺された事件を引き継いだ。その犯人の靴にも血が付いていたようで殺人現場、怪談、出口まで続いていた。それからは途切れてしまっていたが。それ以外の手がかりはなかった。モースとルイスが事件現場に行ったところ、マクルーアの電話番号のリストには「K」とアルファベットのみが記されており、電話してみたところ、売春婦を呼んでいたらしかった。隣人のローラに聞くと、先月中には3〜4回来ているという。しかし、ローラは先天的な嘘つきだとモースは言う。

「ルイス、彼女は嘘つきなんだ。看護婦ですらなかった――婦長だかなんだか知らないが、そんなのは問題外だ」
「どうしてそんなことがわかりますか?」
「彼女の話を聞いたな――二人とも聞いた。脛骨の中ほどまでしかないミニスカート――わたしがそう言ったのを覚えているか? 頸骨の中ほどだ。脛骨は膝の下だ、ルイス。きみはそれを知ってる。だが彼女は知らないんだ」(55頁より)

 もう一度電話をしてKの本名がエリー・スミスであり、1週間スペインに旅行していることがわかった。しかし、電話を受けていたのはエリー自身でありマクルーア殺人の容疑者にされたことを心配していた。アリバイはあることをもう一度確かめた。彼女にとってマクルーアは年齢が離れていたが客でありながら、父親のようなイメージをもっていた。

 もう一つマクルーアについて、気になることがあった。オックスフォード大学3年生のマシュー・ロドウェイが麻薬で酩酊のまま自殺した事件だった。マシューの部屋でマクルーアにあてたの未投函の手紙があったことから、マクルーアは尋問を受けていたが、自殺とされたので不問に終わった。さらにロドウェイの母親からのマクルーア宛の親しい仲と思われる手紙を見つけた。マクルーアとマシューの母親は恋人同士だったのか……。

 聞き込みを続ける中で、パブに出入りをしていた学生寮の用務員のエドワード・ブルックスという男が、マシューが住んでいた学生寮に麻薬を持ち込んで密売していたらしいことがわかった。それを刑事告発をしようとしたマクルーアをエドワードが殺害したのではないか、と推理する。

 エドワード・ブルックスに殺人が行われた日曜日のアリバイを聞いたところ、妻のブレンダがエドワードは朝から胸痛があり、午後2時30分ごろ救急車で病院に運ばれたと言った。モースは嘘だと確信していた。ブルックスとマクルーアには偶然にも接点があったからだ。しかし、その後エドワードは失踪してしまった。殺されていると確信するモース。そして、エドワード殺しに3名の女性の容疑者がいた。しかし誰もがアリバイをもっていた……。

 意欲的な作品です。一つ目の殺人があり、作者はその犯人を中途でばらしてしまいます。次の殺人の容疑者を3名に絞り込ませ、アリバイがないものが犯人というものです。しかし、あまりにもストーリーがチグハグで、なかなか読みこなすことができません。やはり作家というのは衰えていくんだなあと、☆☆☆というところ。これは僕がモースの仮説を繰り返す推理手法をあまり評価していないというか、あまり面白がれないというところに起因します。

カインの娘たち (ハヤカワ ポケット ミステリ)

カインの娘たち (ハヤカワ ポケット ミステリ)