ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『破獄』吉村昭、新潮文庫、1983、1986ーー四度脱獄した男の物語とその時代

 どうという理由もなく吉村昭が気になって、観なかったけれど先日ビートたけし主演でドラマ化された本書を購入。

 読む前は脱獄だけの物語かと思っていましたが、実際には横糸として明治以降の戦争を通した刑務所の歴史にそって書かれていて、ある視点からの戦後史ともいえて、少しでも興味がある方にはとってもオススメ。

 とにかく最も驚いたのが、実際の脱獄囚の話のためなのか、主人公の脱獄囚の会話や心の中が、実際に取材で聞いたこと以外は描写していないことです。まったく主人公が何を考えていたのか、脱獄の理由も記録に残っていること以外はありません。全くのハードボイルドです。

 また吉村昭はおそらく20年以上以来で、すっかり忘れていましたが、読むのに時間がかかるかかることを思い出しました。文体が簡潔すぎて、読み飛ばしができないからでしょう。一つ一つの固有名詞を読んでいくと、そのたびに視線が止まってしまいます。

 また、昔の「ビートたけしオールナイトニッポン」で本書を元ネタにしたトークをしていたのを思い出しました。どういう文脈か忘れてしまいましたが、脱出ネタを披露していたのです。

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)