ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『アメリカ銃の秘密』エラリー・クイーン、越前敏弥、国弘喜美代訳、角川文庫、1933、2014ーーフェアでないことをフェアにしようとした作品

 「国名シリーズ」の第6作めの作品。わたしはミステリをクリスティから謎解き小説を広げ、それからハードボイルド、冒険小説などに移っていったのですが、謎解き小説中心時代でクイーンは半分ぐらい読んで通り過ぎてしまいました。ですので、「国名シリーズ」は前半くらい読んで、本書はおそらく初めて。「おそらく」というのは内容は忘れてしまっているので……。

 今回このシリーズに手を出したのは、角川書店で新訳、そして大きな活字で出版されたのが大きいですね。カーは旧訳のまま、活字は小さいままで、読み進めるのがキツイキツイ……。

 冒頭で「アメリカ銃の秘密(ロデオでの死)ーーある推理の問題」(3頁より)と書かれている通り、2万人の観客を集めたロデオ・ショーにおいて、映画スターのホーンが馬に乗って会場を回ったところ、馬上で銃殺された。ショーに来ていたクイーン父子は殺人事件として捜査を始める。この大勢の観客が容疑者と考え、凶器の銃を持っているか所持検査をしたが見つからなかった。銃はどこに消えたのか、犯人を絞ることができるのか?

 トリックは、殺されたホーンが犯人であるという一人二役パターンでした。しかし、遺体の顔がきれいだったこと、殺された男の娘が父親であることを確信したことから、その可能性を考えなかったわたしとしては、フェアではないと思って少し納得できませんでしたね。しかし、そんなことはクイーン自身でもわかっていたわけで、フェアでないということを推理できる作品として、それに挑戦したということでしょうか。というわけで、☆☆☆★というところです。

アメリカ銃の秘密 (角川文庫)

アメリカ銃の秘密 (角川文庫)

 

『憎悪の果実―私立探偵ジョン・タナー』スティーヴン・グリーンリーフ,黒原敏行,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1999/2001ーータナーは3度カマをかけて捜査する

 私立探偵ジョン・タナー・シリーズ第13作目の作品。あと残りが少なくなってきました。本シリーズは、謎解きと意外な犯人がきちんと盛り込まれていて、ミステリとして正統派の貴重なシリーズだと思います。本書もまさしくそのような作品です。

 タナーの入院先で一緒にリハビリを受けた25歳の女性のリタ。生まれつき脚の障害をもっていたが進んだ手術より健常とわからないように回復していた。リタはイチゴ農場で働いており、その退院後、刺殺された。タナーは依頼人のいないまま、強大な農場主が支配する南の小さな町で犯人を捜す。しかし、タナーはリタの昔からの友人で看護師のモナに秘密を暴くなと忠告を受ける。

 モナはドアを閉めると、かすかにささやき声でいった。

「わたしたちをそっとしておいてちょうだい、ミスター・タナー。ハシエンダス(舞台となっている地名)には、暴かないほうがいいことがいろいろあるの。誰も知らないほうがいいことは、知っている人間までがお墓まで持っていくのが一番なの。そうさせてちょうだい、ミスター・タナー。時間がたてば、秘密は埋もれてしまうんだから」(70~71頁より)

 リタは秘密を持っていたらしいと知るタナーは容赦なく暴こうとするのですが、婚約者、幼馴染、婚約者の家族などがそれを阻止する。また、探っていくうちに、嫉妬、死出生の秘密などさまざまな殺人の動機が考えられるようになる。

 また、前作でもそうでしたが、この時代のアメリカの問題点を舞台にしているところなど、ああ、そういえば、こんなことが問題になっていたっけ、思い出します。ただ単なる歴史になっているだけで、現代につながっていないところが残念ですが…。

 後半、タナーは、関係者にカマをかけて、自白を引き出そうと解決を図りますが、それを3回行います。この3回ともが絶妙で、どんでん返しになっています。というわけで、☆☆☆★というところです。 

憎悪の果実―私立探偵ジョン・タナー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

憎悪の果実―私立探偵ジョン・タナー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさいー人生100年時代の個人M&A入門』 三戸政和、講談社+α新書、2018

 前回までフリーランス関係書3部作のような形で読んでしまいましたが、今回は偶然ですがちょっとしたスピンオフになりました。会社をもつということは、立派なフリーランスの一形態ですよね。

 ちょっと前に、知り合いの印刷会社の社長さんに「印刷業界はやっぱり厳しいんですか」と聞いたところ、「いや、そんなことないですよ。廃業している会社は結構あるのんですが、あれは黒字なんですけど、後継者がいないから潰しているんですね。印刷と言っても紙だけでなくいろんなところに印刷しますからね」と話していましたので、本書の「小さな会社を買う」という発想はまあそうなんだろうなと思って購入しました。

 とはいうものの、本書は私が期待した多くの事例であるとか、中小企業の買収のマニュアルではなく、サラリーマンはイチから起業するのではなく、大企業でマネジメント能力をもっている人は技術などをもっている中小企業のオーナーになったほうが成功する確率は高いし、そういう人が増えている、という内容。そういう意味で私には物足りなかったのですが、続編に期待です。

『フリーランス、40歳の壁――自由業者は、どうして40歳から仕事が減るのか?』竹熊健太郎、ダイヤモンド社、2018 ーーフリーランスを一生持続していくということ

 フリーランスを知る本の第3弾です。竹熊氏のフリーランスとしての遍歴と他のフリーランスとしてうまく乗り切ることができている人へのインタビューが紹介されています。なぜ40歳から仕事が減るのかという疑問ですが、まあそのとおりのことが書かれており、厳しいなあという印象です。フリーランスになるのは比較的難しくないが、生涯続けていくのは難しい。

 中川氏がサラリーマンを経験していることを、フリーランスが仕事をとるためのアドバンテージの一つとして挙げていました。企業にはあるコンセンサスがあって、それを知らない人には「そういうものなの?」と意外に感じることがあります。それは企業として、ある落とし所へ向かっていくことであって、それを知らないままフリーランスになると摩訶不思議でしょうね。実際、わたしもそうでした。

 でも大いなる才能を持っている竹熊氏ですらフリーランスは厳しいのか、余裕ではないのか、という嘆息していまいます。

 加えて働くための情報や技術そのものが10年単位で進んで変化していて、企業にいれば企業が働く環境に投資するので、情報や技術を知ることができ、ついていくことができますが、フリーランスになると自らに投資しない限り難しいわけです。

 それに対し、投資をするのではなく、もとから持っている知識や技術を他の分野に転用することが必要であると示しています。それも自己プロデュースをしっかりしなくてはならないし、それに時間がかかりますし(つまりその間収入がない)、非常に難しい。本書の中には、いろいろトライしてみて、偶然そうなったような方もおられます。

 あと若い頃いっしょに仕事をした人が出世して、その紹介で仕事をもらうのが大きいと書かれていますが、それも難しいですよね。うちの会社でもそういう人がいます。他の編集者からは嫌われていて、編集の仕事もできないにもかかわらず、上司の命令で仕事を出さなければならなかったと悲しそうに言っていましたね。

 編集者としては、やりやすいフリーの人は、編集者本人の意向をうまく汲み取ってくれて、そのまま対応してくれて、早い人ですからね。そうなると、年をとると厳しい。最後に一つの形として、起業して社長になる、というのを考えとしてあげていますが、まあそうなんでしょうね。それには才覚、時間、お金、タイミングがないと難しい。

 なお杉森昌武氏がインタビューを受けていますが、昔に『フロムA』の面白いエッセイを書いていた人でこれからノンフィクションの書き手の一人になるのかなと思っていたのですが、『磯野家の謎』の企画・執筆の制作者など編集プロダクションを経営していたことに驚きました。 

『フリーランスがずっと安定して稼ぎ続ける47の方法』山田竜也、日本実業出版社、2018

 アマゾン検索で引っかかってタイトルだけで購入。著者はWebマーケティングを専門とする人で、サラリーマンを3年半だけでフリーランスとなっています。内容は著者の経験に基づいたフリーランスの指南書。この経験に基づいたというところがミソで、その点が説得力をもたせています。

 「得意分野は『自分のなかで平均よりも上のこと』でOK」「あなたのスキルでお客様の悩みや課題を解決することが仕事の本質」など、迷うこと、したほうがよいことなど基本的なスタンスから、ギャラの交渉まで書かれています。

 表現の仕方こそ異なりますが、先日の『仕事に能力は関係ない。ー 27歳無職からの大逆転仕事術』の内容と本質的には違いがないような気がします。

 しかし筆者が話したり資料を渡したりしてライターが書き上げたもののようで、内容に深みがないのが玉に瑕です。内容は正しいのだろうけど、否定的なことが書かれていないなど、いまいち表面をなでている感じがします。まあそうしないと出版できるほど文字量がたまらないだろうし、作者が時間がとれないだろうでしょうから、しょうがないか。

フリーランスがずっと安定して稼ぎ続ける47の方法

フリーランスがずっと安定して稼ぎ続ける47の方法

『仕事に能力は関係ない。ー 27歳無職からの大逆転仕事術』中川淳一郎,KADOKAWA,2016

 著者の経験をもとにして、フリーランスで仕事をとり、どのようにして生きていくかを語ったもので、今の私には非常に面白かったですね。ギャラについて、例えば『〇〇』という雑誌で1ページ編集すると5万円フリーの編集者に示されていて、ライター、イラストレーター、カメラマン、取材協力者の謝礼にどのようにして振り分けるかなど、具体的に示しているのも良かった。

 ただ読んでいる途中から、やっぱり自分にはフリーランスは無理だなあ、このくらいバイタリティがないと生きていけないのだろうなあ、と絶望的な気分になったりします。 

『隣接界』クリストファー・プリースト,古沢嘉通,幹遙子訳,早川書房,2013,2017

 プリーストの新作で昨年評価されたようです。私にとっては『奇術師』『魔法』『双生児』に続く4作目です。集大成的な作品と評価されており、確かに奇術師、双生児が出てくるし、そう言われてみればそうです。しかし話は最後まで謎でした……。 

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)