hoshi-itsu’s 本にまつわるblog

「ほしいつ」です。海外ミステリが中心のブログです。下書きがなくなってしまったのが悲しい……。

『危機の宰相』沢木耕太郎、文春文庫、2006、2008ーーミステリのようなノンフィクション

 池田勇人を中心にしたノンフィクション。「所得倍増」計画はどのように立ち上がっていったかをミステリのように解き明かしていく。

 ノンフィクションというのは、事象を考え、文献を読み、取材によって新しい情報を得て、それを取捨選択し再構成していくものである。そのため、取材者、再構成者の力量もあるが、倫理が非常に問われる。優れたノンフィクションとは、それがバランスよく配置されたものであるが、あまりにもフェアであることを追求していくと、内容が面白くなくなっていく可能性がある。本書は、他の沢木さんの作品と同じように、それを面白さを失わないようにしている傑作といえよう。

 ちなみに会社の会話で、下村治の名前を出したら、誰も知りませんでした。 

危機の宰相 (文春文庫)

危機の宰相 (文春文庫)

『虎の影』マイクル・コリンズ、水野谷とおる訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ1349、1972、1980ーー戦車と虎の影

 隻腕私立探偵ダン・フォーチューン・シリーズ第5作目の作品。しかし翻訳は3番めにされているということは、前々作、前作よりも評価されてのものなのか、さらに帯に「ニューヨーク・タイムズ」の「複雑なプロットを見事にまとめた傑作」と書かれていること、タイトルがかっこいいことから、ものすごく期待しました。

 ある夜、ニューヨーク市マンハッタン区の南西部に位置する地区のチェルシーで質屋を営んていたフランス人のユージーン・マレーが自ら経営する質屋で撲殺された。犯人は警察によって店員のジミー・宗があっさり逮捕されたが、ジミーが犯人と信じられないユージーンの妻のヴィヴィアンヌにダンは捜査を依頼された。調べていくうちに、その日は複数の人間が出入りした上に、ユージーンの過去、そしてヨーロッパの戦争が絡んでいくのだった……。

 しかし結論から言えば、殺人の機会がある複数名から誰が実行したのかという、今までのシリーズ作の中でもっともシンプルなプロット・トリックだったので、ちょっとがっかりでした。ちなみに「虎の影」は2つのことの隠喩でした。というわけで、☆☆☆★というところです。

虎の影 (1980年) (世界ミステリシリーズ)

虎の影 (1980年) (世界ミステリシリーズ)

『BLUE GIANT SUPREME (6)』石塚真一、ビッグコミックススペシャル、2018

 最近、大人買いしました。一種の天才物語ですね。天才物語といえば、山岸凉子氏や曽田正人氏ですが、ずいぶん異なります。それだけでも本作の意義はあります。もう少し悪人というか、清濁併せ呑むキャラクターがないのが物足りない。みな同じキャラクターに見えます。しかし、何度も何度も読んでみたくなってしまいます。 

BLUE GIANT SUPREME (6) (ビッグコミックススペシャル)

BLUE GIANT SUPREME (6) (ビッグコミックススペシャル)

『漫画家本vol.9 細野不二彦本』少年サンデーコミックススペシャル、小学館、2018

 細野不二彦さんのインタビュー集。書店で『あどりぶシネ倶楽部』『うにばーしてぃBOYS』『BLOW UP!』が別枠でインタビューされているのを見てすぐさま購入しました。本書の編集さんの意図にのせられたわけです。

 細野さんといえば、『さすがの猿飛』があって、アニメも見て「アニメトピア」も聞いていて、『どっきりドクター』があって、しかし『Gu-Guガンモ』は飛んで、『東京探偵団』と進んできて、それからの少年誌のマンガが苦しいなあと思っていたら、読み切りで『あどりぶシネ倶楽部』を描いて徐々に青年誌に移行して『ママ』は『めぞん』みたいだなと思って、『太郎』も追いつつ、『うにばーしてぃBOYS』『BLOW UP!』で夢中にさせられました。『りざべーしょんプリーズ』『愛しのバットマン』も良かったけど。そして『ギャラリーフェイク』でエンタメとして完成した感じ。 

 私は、『あどりぶシネ倶楽部』の静かなる男の話(たぶんオタクを青年コミックできちんと出した初めてのお話だったと思う)、『うにばーしてぃBOYS』のサボテンのレンタルを断った話なんかが好きなんですよねえ。むちゃくちゃ元気になりました。

『あなたを愛してから』デニス・ルヘイン、加賀山卓朗訳、ハヤカワ・ミステリ1933、2017、2018ーーいわゆるロマンス小説風サスペンスミステリなのだろうか

 ルヘインの新作ですが評判が良いようで、若い女性を主役にしていて、いわゆるロマンス小説風サスペンスミステリなのだろうか。あまりこういうのを読んだことがないからわからん、と思いつつ、『そしてミランダを殺す』と同じ雰囲気をもっている。このようなミステリが流行りなのか。そして何故だかわからないけど、わたしには相性がよくないらしい。

 第1部は失踪を探すストーリーでクックのような感じがして(そういえばクックの新作はもう出ないのだろうか?)、私には良かったのだけど、第2部、第3部となっていくにつれて、2回ほど「えっ? なにこれ?」と驚いたところはあったものの、無理な展開のため、第1部との関係はどうなっているのと思って、すべっているように感じてしまった。だた今どきアメリカで二重生活ができるのかという驚きはあった。というわけで、☆☆☆★というところです。

あなたを愛してから (ハヤカワ・ミステリ1933)

あなたを愛してから (ハヤカワ・ミステリ1933)

『家蝿とカナリア』ヘレン・マクロイ、深町真理子訳、創元推理文庫、1942、2002

 ヘレン・マクロイの全28長編作中、第5作目なので初期の作品。主人公は精神分析学者のベイジル・ウィリング博士。 マクロイはサスペンス作家だと思っていたので、本書の謎解きど真ん中ぶりには驚きました。

  内容はというと、ある演劇劇場の公演中、その登場人物の男が殺されているのを発見された。その男は、セリフのない役でアルコーブのなかで手術で使用されるメスで刺殺されていた。舞台中にアルコーブに入っていったのは3名。その3名のうちの誰が殺したのか? それとも他のものが行ったのか? 舞台に招待されて見ていたベイジル博士は協力者として捜査を始めた。

  舞台の公演中の殺人という一種不可能犯罪を解くわけです。そして探偵はさまざまな推理するための手管を用いて犯人を当てていきます。その回答の導き方が今では当たり前に近くなっていますが、当時ではそれまでにない方法論を用いています。そこが評価されたのでしょう。というわけで、☆☆☆というところです。

家蝿とカナリア (創元推理文庫)

家蝿とカナリア (創元推理文庫)

 

『ソロモンの偽証』宮部みゆき、新潮文庫、2012、2014ーー『アクロイド』の一歩先を進むミステリ

 宮部みゆき氏の文庫にして6冊の長編ミステリ。12月25日の雪あかりの朝、一人の男子中学生の死体が学校で発見された。警察により自殺として処理されたのだが、彼の死は同級生の3名の不良によって学校の屋上から突き落とされて殺されたという告発状が学校、担任の先生、同級生宛に送られてきた。そこから次第に少年の死に不審な噂が広がっていく。そこをマスコミにタレコミがあって中学校自体が混乱に陥っていく。その中ではっきりしないことに傷ついてたクラス長の藤野涼子は学校内裁判をして解決しようと提案し、被告人、判事、検事、弁護人、陪審員を決めて、夏休みに5日間をかけての裁判を行った……。

 あまり内容について知らずにいたので、最初の自殺と思われた事件が殺人事件になるものであると仮定して読んでいました。

 第2部では事件にまつわる捜査を行うのですが、もっとも似ていると思ったのが、『アクロイド殺し』です。『アクロイド』のいちばんのキモでありトリックは、実際の行動を説明しなかったことですが、 本作品において同様のトリックが用いられているのではないかと思い、解説していない空白の場面・時間はいったい何であるのかを注視して読み進めました。本作では、その「空白」はキャラクターの不可解な行動、事実の矛盾点を見つけ出すことで、読者はある程度推理ができる仕掛けになっています。そのようにして読者を引っ張る作品です。

 というわけで、読者をひっぱるということにおいて、難しいことに挑戦しているミステリで、☆☆☆☆というところです。長くなってしまっているのは仕方ないでしょう。 

ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第III部 法廷 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第III部 法廷 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)