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hoshi-itsu’s blog

「ほしいつ」です。海外ミステリが中心のブログです。下書きがなくなってしまったのが悲しい……。

『人生がときめく片づけの魔法』近藤麻理恵,サンマーク出版,2010

実用・趣味

 ①私は片付けができないので、どのようにしたらよいのか、②なぜ本書がベストセラーになったか、の2つの興味で今更ながら手に取りました。

 まず、驚いたのが、片付けの本にもかかわらず、図や写真がまったくなく、文字しかないこと。これでどうしたベストセラーになったのか。一般実用書で売るには図表はかかせません。ましてや片付けがテーマです。いくらでも可能なはずです。

 読んでみてわかったのは、いまのミニマリズム流行(流行しているのか?)の一端というか、始まりの一つは本書であることです。片付けそのものが人生に影響を与えるという考え方、ときめくモノだけを捨てずに残すという方法が。著者はミニマリストではないと思うのですが、この影響を受けて発展したものがミニマリズムでしょう。なるほど、どのような思想でも流れというものがあることがわかります。

 また筆者のパーソナリティも面白い。幼少期から『ESSE』や『オレンジページ』を愛読していたという経歴には、「ああ、そういう人もいるかもしらない」という驚きと納得をもちました。そしてところどころに、中学生、高校生のころから、日常生活で片付けを考え、失敗してきた思考改善過程を述べているところも、非常に若い著者の主張に説得力を与えます。

 これが私にできるかどうかはわかりませんが、まあ仕事場のデスク回りだけでも実行してみようかなと思います。 

人生がときめく片づけの魔法

人生がときめく片づけの魔法

 

 

『キングを探せ』法月綸太郎,講談社文庫,2011,2015

日本ミステリ

 本書はランキングなどで評価を受けた謎解きミステリですが、どうも私には乗ることができませんでした。

 こういっては読者として敗北なんですけど、殺人というものは、ほとんどの人にとって初めてで、その初めてのことを本書のようにやり遂げるのこと、また失敗することは、どうしても現実にフィットしないのです。

 思えば『生首に聞いてみろ』で従来の謎解きミステリを書き上げた後は、それに飽きてしまったかのように、実験的な試みを注入しているような気がします。それが私には受け入れられないのでしょう。 

 ただ、最小限の記述で最大限の効果を上げようしているのは、素晴らしいと思いますし、それでいて習作という感じがします。この後、習作を集大成した大長編が来るのでしょうか?

キングを探せ (講談社文庫)

キングを探せ (講談社文庫)

 

 

『悲しみのイレーヌ』ピエール・ルメートル,橘明美訳,文春文庫,2006,2015――いかにもなミステリオタクのデビュー作

海外ミステリ

 『その女アレックス』で評判を得たルメートルのデビュー作。『死のドレスを花婿に』が破たんしていたので、もうルメートルは読まなくてよいかなと思っていたら、その後に翻訳されいる作品の評判が良いことから、とりあえず順番に進めるということで手に取りました。

 犯人像が似たものとして、超有名なあの作品とあの作品が思い浮かびます。でも、読者サービスが旺盛で、文体なのか、シーンの切り取り方が上手いのか、キャラクター描写が上手いのか、帯の通り「史上最悪の犯罪計画」と書かれているとおり、よくわからない魅力があるということで、☆☆☆☆というところです。

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

 

 

『ぼくらの仮説が世界をつくる』佐渡島庸平,ダイヤモンド社,2015

 作者は『モーニング』で『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などを担当した編集者で、その彼の編集者論。今の時代には編集者の役割がプロデューサーになったと高らかに宣言しています。その考えはとくに新しいものではありませんが、なかなかできないものです。

 書籍出版の役割は、旧来のものはありますが、著者にとっては名刺になっているものもあり、そのような役割をもつものを考えていくのも一つの方法です。

 でも私としては、書籍の企画を考え、執筆者あるいは編者を探して、原稿を集めて、それが売り物になるような商品にして、流通にのせるだけで精一杯なので、このようなスーパー編集者にはなれないなあ、というのが実感です。

  ただインターネット時代の営業の方法は、やっぱり旧来のものとは異なるんじゃないかとは漠然と考えています。さまざまなタグをつけて、なるべく知ってもらって、リアル書店あるいはネットで購入してもらう。その知ってもらう方法をもっと模索しなくてはならないんですけど、コストがかからないという条件にすると、非常に難しい。広告が通用しないというわけではなく、それプラスアルファが求められるということでしょう。

ぼくらの仮説が世界をつくる

ぼくらの仮説が世界をつくる

 

 

『メグレと無愛想(マルグラシウ)な刑事』ジョルジュ・シムノン,新庄嘉章訳,ハヤカワ・ミステリ 370,1957,1984

 メグレ警部シリーズの「メグレと不愛想な刑事」「児童聖歌隊員の証言」「世界一ねばった客」「誰も哀れな男を殺しはしない」の4つの短編が収録されている短編集。短くて読みやすい。派手なトリックはないものの、ちょっとした意外性はあります。しかし、事件は解決するものの、必ず一部分不明なところが残ります。メグレは、「それはわからない」というのですが、それに対して、どう感じて捉えるかが好みのポイントなのでしょう。

 もしかしたら、今の人にとってはメグレ警部が4大名探偵の一人とされていた時代があったことを知らない人も多いのではないのでしょうか。エラリイ・クイーン、エルキュール・ポアロ、メグレ警部、ヘンリー・メリヴェル卿でしたかねえ。

 そのなかでメグレ警部は、ほかの名探偵ほど残っているとはいえません。これは代表作といえるものがないため、または私的な探偵ではなく公的な警察官であったためだと思います。

メグレと無愛想(マルグラシウ)な刑事 (ハヤカワ・ミステリ 370)

メグレと無愛想(マルグラシウ)な刑事 (ハヤカワ・ミステリ 370)

 

 

『黒い迷宮ールーシー・ブラックマン事件15年目の真実』リチャード・ロイド・パリー,濱野大道訳,早川書房,2011,2015――一種の怒りと恐怖を抱くことができる傑作

ノンフィクション

 ホステスのイギリスの若い女性を監禁・殺人を行った事件を追ったノンフィクション。ものすごくリーダビリティが高く、描写が理性的で偏ることがなく、一種の怒りと恐怖を抱くことができる傑作。

 ニュースなどで犯人が報道されたが、詳しい説明はなく、どのようにして、犯罪を行ったのか、客観的で事実のみを記し、わかる範囲で誠実に書かれている。

 本書について、どのように語るかは難しい。誰もが平凡に見えるし、平凡に見えない――犯人を除いてだけど。いやその犯人でさえも、もし出自が平凡ならば、平凡な人間だったかもしれない。そのように感じさせるほど、この作者は中立であり、全体像をとらえる(果たして、正しい立ち位置だったのだろうか?)。

 犯人像も、事件そのものの関係性を除けば、サイコミステリの犯人像と一致してしまうかもしれないほど、逆説的にいって平凡であり魅力的かつ恐ろしい。出自からの影響、家族とくに親からの影響、育てられ方など、犯人になっても仕方がない面もあるし、同じ境遇の人はいて、そうならなかった人もいるのだ。

 それでいて、やはり、犯罪を行えるメンタリティと行えないメンタリティに壁を感じる。いや、それを越えるのは、いつの間にか気づかないうちであり、意識せずに怪物になっているのだろうか? そんなふうに感じてしまう。

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

 

 

『七つの会議』池井戸潤,集英社文庫,集英社,2012,2016ーーサラリーマンのジレンマを会議で示す

日本ミステリ

 池井戸氏の中堅メーカー企業を舞台にしたクライムノベル。でも読んだ後でないとクライムノベルとわからない。最初にソフトカバーで出版されて、書店にたくさん並んでいたとき、タイトルが「会議」だし、半澤直樹シリーズがテレビで視聴率をとっていたから、半澤シリーズのような、ちょっと謎を織り込んだエンタメ小説かと思っていましたよ。そんなふうに判断した人は多かったんでしょうね。だから編集者はカバーにあえてネタバレともいえるクライムノベルと載せた。

 で、半澤シリーズとは少し異なったし、同じように面白かった。短編が8つあって、連作が連なって長編になっているんですけど、第一話が「居眠り八角」ですからね。時代小説のようなタイトルですけど、内容もそんな感じ。

 それぞれの短編の主人公が異なって、第一話が営業課長、第二話がネジを製作する会社の社長、第三話がメーカーに戻りOL、第四話が経理課の課長代理、第五話がカスタマー室の室長、第六話が営業部長、第七話が副社長で、少しずつ犯罪が浮かび上がるという仕組みになっている。

 この仕組みが物凄くうまい。働いたものならば誰もが経験するジレンマを選択していて、それがわかったときは、読者に対して「仕方がないよなあ」と思わせるようになっている。これを読み終わったのちに、いくつか専門書があったので、購入してしまったくらいだ(まだ読んでないけど)。

 人はどのような条件がそろえば、どの程度のレベルだったら、犯罪に手を染めるかを考えると、本書は見事にそれをついているといえるだろう。というわけで、サラリーマンの論理がわかるという意味を含めて、そしてストーリーテリングのうまさに、☆☆☆☆というところである。 

七つの会議 (集英社文庫)

七つの会議 (集英社文庫)

 

 小説の内容とは関係ないけど、八角という名前を聞くと森脇真末味の『緑茶夢』『おんなのこ物語』を思い出す。