hoshi-itsu’s 本にまつわるblog

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『パリ警視庁迷宮捜査班』 ソフィー・エナフ、山本知子、川口明百美訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ1943、2015、2019ーーはみ出し捜査チームミステリ

 フランスのジャーナリスト、作家、翻訳家、ライターのミステリ作家デビュー作。内容はいろいろな媒体に展開できるようになっていて、いかにもこれらの経歴を活かしきった作品でした。

 パリ警視庁に新たに特別捜査班が設置された。メンバーは約20名で『相棒』のハイブリッド版といっていい。その中心になったのは、警視正のアンヌ・カベスタンで、癖のあるメンバーとやり合いながら、迷宮になった事件を捜査していくのいうのがアウトライン。その事件というのが3つ同時並行で捜査していくのだけど…。

 やはりデビュー作というのもあって、ぎこちなさがあって、あまり字面だけを追って読むだけだと、ストーリーが把握できず、もう一度戻って読むことも何回かありました(これは自分の集中力のなさのせいが大きいのだけれど)。

 また、キャラクター小説の側面が強いけれど、滑っているように思う。自国の評価は☆5つばかりのようだし、アマゾンの評価も高いから、これも私のせいだろう。

 トリックというか、意外性そのものは、デビュー作という感じがあって、意欲的でなかなかよかった。もっと話運びがうまくなれば、すばらしい作品もこれから出てくるのではないだろうか。というわけで、☆☆☆★というところです。

 ーーしかし、アマゾンの評価で読まないままで他の作品と設定が似ているだけというだけで☆1つをつけるのは、出版社の人間として、ひどすぎる。このような設定など昔から多くあるもののバリエーションに過ぎないのだから。 

パリ警視庁迷宮捜査班 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

パリ警視庁迷宮捜査班 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

『ディオゲネス変奏曲』陳浩基、稲村文吾訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2019ーー作者ファン向けの昔の香りのする短編集

 『13・67』の作者・陳浩基氏の短編集。339ページで17編が収録されています。かねてから言われていたとおり、SFもあって、バラエティにとんでいます。ショートショートもありますが、落ちのある話というよりも、スケッチという感じで、ファン向けの短編集ですね。

 『13・67』ではミステリ的なトリックというよりも仕掛け・構成に加えて、キャラクター描写がよかったのですが、本書も遺憾なく発揮されています。SFなどは筒井康隆などの昔懐かしい日本のSF小説を思わせます。というわけで☆☆☆★というところです。 

ディオゲネス変奏曲 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ディオゲネス変奏曲 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

『悪の教典』貴志祐介、文春文庫、2010、2012ーー一気読みできる超弩級のエンタテインメント小説

 私は貴志氏の作品はあまり合わないようで、あまり読んでいません。本書もベスト1を取るくらいなので気になってはいたのですが、どうも自分には関係ない作品のような気がして、今の今ままでまったくノー知識で読んでしまったら、あらあら驚き、こんな超弩級のエンタテインメント小説とは思いませんでした。こんな昏い主人公できちんとクライマックスを作り爆発させるとは。

 大藪春彦の『蘇る金狼』などの作品群を思わせる主人公。考えてみれば、『黒い家』『青の炎』『硝子のハンマー』と続く集大成といっていいのかもしれません。サイコパスで、無慈悲で、コツコツ準備して犯罪に備えるキャラクターと言う意味では通底しています。

 クライマックスは、やはり『銀と金』を思わせ、ドキドキしました。コミック調だけれども、主人公の滑り台ぶりも、なんとなく犯罪を犯すときはこんなものだというようなリアリティがあります。というわけで、評価高く☆☆☆☆★というところです。 

悪の教典 下 (文春文庫)

悪の教典 下 (文春文庫)

悪の教典 上 (文春文庫)

悪の教典 上 (文春文庫)

『天啓の殺意』中町信、創元推理文庫、1982、2005ーー時代を超えるということ

 中町信の第6作目の作品。もとのタイトルは『散歩する死者』で創元推理文庫になるときに改題された。読んでみると、当時の欧米の謎解きミステリを知った上で、それを乗り越えていく野心的な作品でした。中途が退屈だったのが残念ですが。というわけで☆☆☆★というところです。

 それにしても、ガチガチの謎解きミステリというものは、風俗ではなく人間の論理そのものを中心に据えているため、案外古びれることがなく時代を超えてしまう可能性があることがわかります。 

天啓の殺意 (創元推理文庫)

天啓の殺意 (創元推理文庫)

『マイホームヒーロー 第1巻~第7巻』山川直輝原作、朝基まさし作画、ヤングマガジンコミックス、2017~2019ーー先読みをまったくさせてくれない作品

 私が歳をとったせいだろうか、主人公に共感してしまって、連載の1回めから目を離せない作品。とともに、先読みをまったくさせてくれない作品。少々ずるい部分もあるけれど、読者に先を読ませないためには、こうすればよいという見本を見せてくれる。

 40代の営業のサラリーマンの主人公・鳥栖哲雄は、ふとしたことから娘が半グレの男と付き合っているのを知ってしまって、思わず殺してしまう。鳥栖哲雄は必死になって死体を処理するが、半グレに仲間たちが殺された男がどこに消えてしまったか追うことになった。その一人が主人公に当たりをつけて探ってくる…。鳥栖哲雄は嗅ぎ回れても、必死に犯罪を隠蔽するのだが、目隠しされて拉致されてしまう。そして半グレどもに犯人を探してあげましょうと提案をし、半グレの一人を罠にかけるのだが…。

 ずるいというのは、キャラクターたちが殺人の対処法や犯罪方法について詳しすぎるという点だけど、推理小説作家志望の主人公だったり、上昇志向が強い半グレだったり、犯罪グループだったり、設定をうまく活かしている。

 これは原作者のチカラであるけれど、どうも作画の人がうまくそれを効果的に見せるように、ご都合主義のあらが見えないように処理している。ご都合主義というのは、主人公が綱渡りのように例えば盗撮などを行っているが、実際には一度くらいシュミレーションをしないとうまく扱えないだろうなどという点だ。そのご都合主義が鼻につく人がいるかもしれないけど、連載で読むぶんには気にならない。あまり評価を聞いたことがないので、このあたりで挙げておきたい。  

マイホームヒーロー(7) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(7) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(6) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(6) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(5) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(5) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(4) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(4) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(3) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(3) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(2) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(2) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(1) (ヤングマガジンコミックス)

マイホームヒーロー(1) (ヤングマガジンコミックス)

『アナバシス―敵中横断6000キロ』クセノポン、松平千秋訳、岩波文庫、紀元前370年代、2002ーー脱出はエンタメの基本ですね

 近所の図書館の新入荷コーナーに置いてあったのをたまたま拾い上げて読んでしまったノンフィクション・ノベル?(そこには三島由紀夫の現在の新潮文庫の活字の大きさにリメイクされた『午後の曳航』もあった)

 手にとった理由は、「クセノポン…どっかで聞いたことあるな」であり、「サブタイトルの『敵中横断6000キロ』というのは冒険小説っぽくて面白そうだな」であり、解説を読むと「あの『ソクラテスの弁明』の作者か」と驚いた。そうすると哲学者が軍人であるということになる。かねがね不思議に思っていたのが、哲学者と軍人が同一人物であるということだ。どのように一人の人間のなかで両立していたのか、それを知るためには、このようなノンフィクション(といっていいのかわからないけど)を読むのが手がかりになるのではないかと考えた。

 あと実際に少し文章を読むと、非常に読みやすい。この難しいと思っていたけど、実際にはつるつる読める平易な文章だったというのは、岩波文庫に多い。元本はちくま書房だったようだけど、岩波文庫はかなり編集方針として、平易な文章でなくてはならないというものがあるのではないだろうか?

 もとに戻って、舞台は古代ペルシャで、その国王には二人の息子がいて、優秀でない長男が王国を継いだのだが、嫉妬した優秀な次男が国を乗っ取ろうとクーデターを起こした。そのときに傭兵としてギリシャ兵などが雇われ、その一人がクセノポン。その次男に心を奪われていたので力をかそうとしたわけだけど、15000名の軍隊で攻めたが、裏切りにあって、次男は殺され、軍隊の指揮者も騙されて殺された。指揮者がいない軍隊が敵のど真ん中で放り出されたので、新たな指揮官をみんなで決めて任命して、6000キロの距離を10000名以上の傭兵集団が2年をかけてギリシャまで脱出するという話である。

 考えてみれば、冒険小説・エンタテインメント小説の基本設定と変わらない。したがって、非常に思いがけなく面白い。どのように進んでいったのか、まあその土地々々で話し合ったり略奪したりなんですけど、危機的状況になるとみんなで話し合って対処して行動するわけである。

 ここでクセノポンがプラトンの弟子よろしくうまい説明をして、どうにかこうにか切り抜ける。それがあまりにも多すぎて、クセノポンが自分の覚えていることだけ記述したのじゃないかというほど。またクセノポンも偉そうにしないので、逆にかっこよく書いているんじゃないかと思ってしまう。というわけで、冒険小説と言うにはシンプルすぎるけど、おすすめです。

アナバシス―敵中横断6000キロ (岩波文庫)

アナバシス―敵中横断6000キロ (岩波文庫)

 

『アマゾンの料理人―世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』太田哲雄、講談社、2018

 先日、「激レアさんを連れてきた。」で放送された料理人の自伝的エッセイ集。内容的には「激レアさん」というよりも「クレージージャーニー」に近いけど、著者が非常に楽天的で、普通の人なら苦労としてじくじく記せるところをさらっと「こんなことがあった」というかのように書き流す。あまり自慢をしたくない人なのだろう。料理人のことはわからないけど、ここまで行動力があることが非常に羨ましい。

 文体は典型的なライターのもので、非常に読みやすいのはグッドです。 

アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所

アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所