hoshi-itsu’s 本にまつわるblog

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー』ジョン・コリア、井上雅彦、植草昌実訳、扶桑社ミステリー、2013ーー奇妙な設定、奇妙な筋の運び、奇妙なオチがある

 奇妙な味のさきがけの作家、ジョン・コリアの短編集。私は昔『炎のなかの絵』を読んでいるのですが、あまり記憶に残りませんでした。他の作家よりオチの強烈度が少ない、物足りないと感じたように思います。

 本書は約300ページに17の短編が収録されており、なかにはショートショートといえるものもあり、非常に帰りの電車のなかで読むにはお手頃でした。一つ一つについて、奇妙な設定、奇妙な筋の運び、奇妙なオチがあり、そのようなものを求めるには最適の短編集と言えるでしょう。というわけで、☆☆☆というところです。 

 それにしても、もう少し短編集を出版してほしい。短編集の売上部数はいいのですから。このような企画は奇妙な味に限らず、もっと様々なジャンルで行っても良いのではないでしょうか。

予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー (扶桑社ミステリー)

予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー (扶桑社ミステリー)

『レイチェルが死んでから』フリン・ベリー、田口俊樹訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2016、2018ーーサスペンスで、スリラーで、サイコもの

 本書は、新人作家のフリン・ベリーのデビュー作にして、2017年のエドガー賞最優秀新人賞受賞作。同時期に『東の果て、夜へ』があり、それを制したものとのこと。

 15年前に姉のレイチェルが殺されたのを発見した妹のノーラが主人公。ノーラは悲しみに暮れながらレイチェルとの思い出や妄想をもって毎日を過ごしつつ、レイチェルに親しい者に接触し犯人探しをしていた。そうしたら…

 現在のノーラの話と過去の思い出のノーラの話が交互に、あるいは境目がなく語られる。そのため、何が事実なのか妄想なのか読者は混乱してしまうが、あまりにもノーラの悲しみの深さにあまり気になりませんでした。

 と考えていたら、サスペンスなのか、スリラーなのか、サイコものなのか、どんどん転換していくところが面白い。あまり謎解き的な要素が少ないのですが、アメリカ人がイギリスを舞台にしているためか、非常に読みやすく(だからコクがない)、好感が持てます。というわけで、ちょっと評価が高めに、☆☆☆★というところです。

レイチェルが死んでから (ハヤカワ・ミステリ文庫)

レイチェルが死んでから (ハヤカワ・ミステリ文庫)

『中動態の世界―意志と責任の考古学』國分功一郎、医学書院、2017

 世界でこれまで見過ごされてきたことに対して、言葉を名付け見つけてきた論考であります。何も知識をもたず読む前は、「中動態」とは、be動詞のことで「在る」ことを示しているかと思っていましたが、全く異なるものでした。

 とにかく、これから物事を考えるのに、2つに分けて考えられてきたことに対して、もう一つの提言をできるようになる、元ネタになりそうな感じがします。そういう意味で必読です。

 例えば、以下のようなことが書かれています。

 日常において、選択は不断に行われている。人は意識してなくとも常に行為しており、あらゆる行為は選択である。そして選択はそれが過去からの帰結であるあるならば、意志の実現とは見なせない。ならば次のように結論できよう。意志と選択は明確に区別されねばならない。(131ページより)

 これは、選択と意志の違いを述べたものですが、ハードボイルド小説の主人公の行動原理が選択であることがわかります。

 また、いままで、「編集(エディット)」と「創造(クリエイト)」と違いが判らなかったのですが、「編集」は選択であり、「創造」が意志であることがわかります。

 また驚いたのが、ギリシア時代には意志という考え方がなかったということである。アリストテレスには意志の概念が欠けているというのである。ここで思い出すのが、イリアスなどを読んでいると、ローマ時代までは人間は「意識」という概念がなかったという説です。これらは、どうもつながっているように思います。

  前半な何とかついていくことができましたが、後半は私の基礎知識不足でほとんど理解できませんでした。それでも、非常にスリリングな考えでした。

『バビロン 1 ―女―』『バビロン 2 ―死―』『バビロン 3 ―終―』野崎まど、講談社タイガ、2015、2016、2017

  野崎まど氏の新シリーズですが、本作も『Know』も少し退屈なんですよね。ついでに言ってしまえば『カド』も。この理由はおそらく官僚や政治家などを主役に据えているせいではないでしょうか。野崎氏のキャラクターは変人なので官僚などにやらせると少しリアリティが出るのですが、やはり権力を背にした天才的な力は映えないと思うのです。 あとは歴史的人物などが考えられますが、それも退屈になるでしょうね。 

バビロン 3 ―終― (講談社タイガ)

バビロン 3 ―終― (講談社タイガ)

バビロン 2 ―死― (講談社タイガ)

バビロン 2 ―死― (講談社タイガ)

バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)

バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)

『破獄』吉村昭、新潮文庫、1983、1986ーー四度脱獄した男の物語とその時代

 どうという理由もなく吉村昭が気になって、観なかったけれど先日ビートたけし主演でドラマ化された本書を購入。

 読む前は脱獄だけの物語かと思っていましたが、実際には横糸として明治以降の戦争を通した刑務所の歴史にそって書かれていて、ある視点からの戦後史ともいえて、少しでも興味がある方にはとってもオススメ。

 とにかく最も驚いたのが、実際の脱獄囚の話のためなのか、主人公の脱獄囚の会話や心の中が、実際に取材で聞いたこと以外は描写していないことです。まったく主人公が何を考えていたのか、脱獄の理由も記録に残っていること以外はありません。全くのハードボイルドです。

 また吉村昭はおそらく20年以上以来で、すっかり忘れていましたが、読むのに時間がかかるかかることを思い出しました。文体が簡潔すぎて、読み飛ばしができないからでしょう。一つ一つの固有名詞を読んでいくと、そのたびに視線が止まってしまいます。

 また、昔の「ビートたけしオールナイトニッポン」で本書を元ネタにしたトークをしていたのを思い出しました。どういう文脈か忘れてしまいましたが、脱出ネタを披露していたのです。

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)

『職業としての「編集者」』片山一行、エイチアンドアイ、2015

 本書のカバーに『ビジネス書の「伝説」を超えられる!』と書かれている通り、主にビジネス書の編集のためのノウハウ本。私も広い意味でマニュアル本を編集しているので非常に勉強になりました。実はこういうノウハウは本を読んでも、あまり身につなないもので、本来はオン・ザ・ジョブ・トレーニングが必要なことです。

 本書を読んでいると片山氏の編集本を何冊か読んだことがあることがわかります。一つの疑問としては、営業については何もないのかな、と思いました。本の流通は書店だけではないでしょうから。

 また編集者像は一つではないということも言ってほしかったですね。それぞれ編集者としての強みは異なるのですから、その強みを押し出すことも大切なのではないかなと思います。

職業としての「編集者」

職業としての「編集者」

『チャイナタウン』S・J・ローザン、直良和美訳、創元推理文庫、1994、1997ーー旧来のハードボイルド小説の文法に則ったデビュー作

 私立探偵リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第1作目の作品。若い女性と年上の男性の私立探偵コンビが交互に語るミステリと書評で読んで、あのディック・ロクティのつまらなかった『眠れる犬』に近いものと思い避けていたのですが、試しに一冊読んでみるかと非常に遅らせながら本書を手に取りました。

 チャイナタウンプライドの美術館で寄付された非常に価値のある磁器が盗まれた。その盗品の捜索を私立探偵のリディアは依頼された。磁器を盗んで金に変えるには特別なルートが必要だ。リディアは旧知の私立探偵のビルと一緒にそれを追って美術館や売人を探っていくのだが……。

 感想はというと、最初から中途まではアメリカの私立探偵物には珍しく主人公が不安定な感じがドン・ウィンズロウのニール・ケアリー・シリーズに近くて、あまり面白みを感じなかったので流し読んでいたのですが、エンディングでは「事件の触媒としての探偵」のハードボイルド小説であることがわかり驚きました。この「事件の触媒としての探偵」は『マルタの鷹』や『大いなる眠り』など初期のハードボイルド小説には見られたのですが、いつしか少なくなってしまいましたが、私はこれこそが謎解き小説とは異なるハードボイルド小説の特有のものであり、さらにはアドバンテージだと思っているので、そういう意味で本書を評価したいですね。

 というわけですが、☆☆☆★というところです。 

チャイナタウン (創元推理文庫)

チャイナタウン (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

眠れる犬 (扶桑社ミステリー)

眠れる犬 (扶桑社ミステリー)