hoshi-itsu’s 本にまつわるblog

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『破獄』吉村昭、新潮文庫、1983、1986ーー四度脱獄した男の物語とその時代

 どうという理由もなく吉村昭が気になって、観なかったけれど先日ビートたけし主演でドラマ化された本書を購入。

 読む前は脱獄だけの物語かと思っていましたが、実際には横糸として明治以降の戦争を通した刑務所の歴史にそって書かれていて、ある視点からの戦後史ともいえて、少しでも興味がある方にはとってもオススメ。

 とにかく最も驚いたのが、実際の脱獄囚の話のためなのか、主人公の脱獄囚の会話や心の中が、実際に取材で聞いたこと以外は描写していないことです。まったく主人公が何を考えていたのか、脱獄の理由も記録に残っていること以外はありません。全くのハードボイルドです。

 また吉村昭はおそらく20年以上以来で、すっかり忘れていましたが、読むのに時間がかかるかかることを思い出しました。文体が簡潔すぎて、読み飛ばしができないからでしょう。一つ一つの固有名詞を読んでいくと、そのたびに視線が止まってしまいます。

 また、昔の「ビートたけしオールナイトニッポン」で本書を元ネタにしたトークをしていたのを思い出しました。どういう文脈か忘れてしまいましたが、脱出ネタを披露していたのです。

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)

『職業としての「編集者」』片山一行、エイチアンドアイ、2015

 本書のカバーに『ビジネス書の「伝説」を超えられる!』と書かれている通り、主にビジネス書の編集のためのノウハウ本。私も広い意味でマニュアル本を編集しているので非常に勉強になりました。実はこういうノウハウは本を読んでも、あまり身につなないもので、本来はオン・ザ・ジョブ・トレーニングが必要なことです。

 本書を読んでいると片山氏の編集本を何冊か読んだことがあることがわかります。一つの疑問としては、営業については何もないのかな、と思いました。本の流通は書店だけではないでしょうから。

 また編集者像は一つではないということも言ってほしかったですね。それぞれ編集者としての強みは異なるのですから、その強みを押し出すことも大切なのではないかなと思います。

職業としての「編集者」

職業としての「編集者」

『チャイナタウン』S・J・ローザン、直良和美訳、創元推理文庫、1994、1997ーー旧来のハードボイルド小説の文法に則ったデビュー作

 私立探偵リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第1作目の作品。若い女性と年上の男性の私立探偵コンビが交互に語るミステリと書評で読んで、あのディック・ロクティのつまらなかった『眠れる犬』に近いものと思い避けていたのですが、試しに一冊読んでみるかと非常に遅らせながら本書を手に取りました。

 チャイナタウンプライドの美術館で寄付された非常に価値のある磁器が盗まれた。その盗品の捜索を私立探偵のリディアは依頼された。磁器を盗んで金に変えるには特別なルートが必要だ。リディアは旧知の私立探偵のビルと一緒にそれを追って美術館や売人を探っていくのだが……。

 感想はというと、最初から中途まではアメリカの私立探偵物には珍しく主人公が不安定な感じがドン・ウィンズロウのニール・ケアリー・シリーズに近くて、あまり面白みを感じなかったので流し読んでいたのですが、エンディングでは「事件の触媒としての探偵」のハードボイルド小説であることがわかり驚きました。この「事件の触媒としての探偵」は『マルタの鷹』や『大いなる眠り』など初期のハードボイルド小説には見られたのですが、いつしか少なくなってしまいましたが、私はこれこそが謎解き小説とは異なるハードボイルド小説の特有のものであり、さらにはアドバンテージだと思っているので、そういう意味で本書を評価したいですね。

 というわけですが、☆☆☆★というところです。 

チャイナタウン (創元推理文庫)

チャイナタウン (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

眠れる犬 (扶桑社ミステリー)

眠れる犬 (扶桑社ミステリー)

『危機の宰相』沢木耕太郎、文春文庫、2006、2008ーーミステリのようなノンフィクション

 池田勇人を中心にしたノンフィクション。「所得倍増」計画はどのように立ち上がっていったかをミステリのように解き明かしていく。

 ノンフィクションというのは、事象を考え、文献を読み、取材によって新しい情報を得て、それを取捨選択し再構成していくものである。そのため、取材者、再構成者の力量もあるが、倫理が非常に問われる。優れたノンフィクションとは、それがバランスよく配置されたものであるが、あまりにもフェアであることを追求していくと、内容が面白くなくなっていく可能性がある。本書は、他の沢木さんの作品と同じように、それを面白さを失わないようにしている傑作といえよう。

 ちなみに会社の会話で、下村治の名前を出したら、誰も知りませんでした。

 そういえば、昔、年のころは沢木氏よりも上の元ノンフィクションライターに、好きな作家はと訊かれ、沢木耕太郎と答えたら、その人は「ああ、ユニークな視点を出すよな」というようなことを話しました。私は、沢木氏の題材そのものはむしろ陳腐なものが多く、スタイルと文体が特徴であり魅力であると思っていたので、その時は「そういうもんかな」と不思議に感じましたが、本書がその「ユニークな視点」そのものなんでしょうね。 

危機の宰相 (文春文庫)

危機の宰相 (文春文庫)

『虎の影』マイクル・コリンズ、水野谷とおる訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ1349、1972、1980ーー戦車と虎の影

 隻腕私立探偵ダン・フォーチューン・シリーズ第5作目の作品。しかし翻訳は3番めにされているということは、前々作、前作よりも評価されてのものなのか、さらに帯に「ニューヨーク・タイムズ」の「複雑なプロットを見事にまとめた傑作」と書かれていること、タイトルがかっこいいことから、ものすごく期待しました。

 ある夜、ニューヨーク市マンハッタン区の南西部に位置する地区のチェルシーで質屋を営んていたフランス人のユージーン・マレーが自ら経営する質屋で撲殺された。犯人は警察によって店員のジミー・宗があっさり逮捕されたが、ジミーが犯人と信じられないユージーンの妻のヴィヴィアンヌにダンは捜査を依頼された。調べていくうちに、その日は複数の人間が出入りした上に、ユージーンの過去、そしてヨーロッパの戦争が絡んでいくのだった……。

 しかし結論から言えば、殺人の機会がある複数名から誰が実行したのかという、今までのシリーズ作の中でもっともシンプルなプロット・トリックだったので、ちょっとがっかりでした。ちなみに「虎の影」は2つのことの隠喩でした。というわけで、☆☆☆★というところです。

虎の影 (1980年) (世界ミステリシリーズ)

虎の影 (1980年) (世界ミステリシリーズ)

『BLUE GIANT SUPREME (6)』石塚真一、ビッグコミックススペシャル、2018

 最近、大人買いしました。一種の天才物語ですね。天才物語といえば、山岸凉子氏や曽田正人氏ですが、ずいぶん異なります。それだけでも本作の意義はあります。もう少し悪人というか、清濁併せ呑むキャラクターがないのが物足りない。みな同じキャラクターに見えます。しかし、何度も何度も読んでみたくなってしまいます。 

BLUE GIANT SUPREME (6) (ビッグコミックススペシャル)

BLUE GIANT SUPREME (6) (ビッグコミックススペシャル)

『漫画家本vol.9 細野不二彦本』少年サンデーコミックススペシャル、小学館、2018

 細野不二彦さんのインタビュー集。書店で『あどりぶシネ倶楽部』『うにばーしてぃBOYS』『BLOW UP!』が別枠でインタビューされているのを見てすぐさま購入しました。本書の編集さんの意図にのせられたわけです。

 細野さんといえば、『さすがの猿飛』があって、アニメも見て「アニメトピア」も聞いていて、『どっきりドクター』があって、しかし『Gu-Guガンモ』は飛んで、『東京探偵団』と進んできて、それからの少年誌のマンガが苦しいなあと思っていたら、読み切りで『あどりぶシネ倶楽部』を描いて徐々に青年誌に移行して『ママ』は『めぞん』みたいだなと思って、『太郎』も追いつつ、『うにばーしてぃBOYS』『BLOW UP!』で夢中にさせられました。『りざべーしょんプリーズ』『愛しのバットマン』も良かったけど。そして『ギャラリーフェイク』でエンタメとして完成した感じ。 

 私は、『あどりぶシネ倶楽部』の静かなる男の話(たぶんオタクを青年コミックできちんと出した初めてのお話だったと思う)、『うにばーしてぃBOYS』のサボテンのレンタルを断った話なんかが好きなんですよねえ。むちゃくちゃ元気になりました。