『桶川ストーカー殺人事件―遺言』『殺人犯はそこにいる』の清水潔氏が、自ら行った調査報道について、コンパクトに示した新書。面白かったのが、清水氏が三人称では書けず、一人称でどうにか書けるようになったといっているところ。
『毎日新聞・校閲グループのミスがなくなるすごい文章術』毎日新聞・校閲グループ 岩佐義樹,ポプラ社,2017
書店でジャケ買いしてしまった本。最近、校正作業に悩んでいて、つい手に取ってしまいました。正しい文章とはどういうものであるのか、その指針をあらためて示してくれて、とても参考になりました。
『失踪者』シャルロッテ・リンク, 浅井 晶子訳,創元推理文庫,2003,2017ーーリーダビリティあふれるドイツのベストセラー小説
今年出版された新刊です。しかし原著は2003年なのか、ずいぶん前のようです。ドイツのベストセラー作家で、解説によると日本では宮部みゆきにあたることらしい。
舞台はイギリスで、幼馴染の結婚式に海外へ渡るために、エレインはヒースロー空港に行ったが天候のために飛行機が飛ばず、たまたま知り合った弁護士の男に自分の家に宿泊しないかと誘われた。その後、エレインは失踪してしまった。事件にもなったが結局見つからないままだった。
その5年後、その幼馴染のロザンナは、昔の知り合いから、その失踪事件の取材をしないかと依頼された。ロザンナは結婚前はジャーナリストで結婚後、主婦をしていたのだが、夫がロザンナを束縛しすぎて、関係があまりよくなかった。ロザンナはその依頼を引き受けて、イギリスにわたって、その弁護士にあったのだが、とてもエレインの失踪にかかわってる様子はなかった。その弁護士はエレインには恋人がいたと言ったが誰も信用してくれなかったと言った。エレインの失踪には隠れた動機があったのか?
まずはシンプルで読みやすい。一つ一つのシーンが明確で、場面転換もきちんと一行を空けてくれる。描写も念入りで、少しぐらい読み飛ばしてもストーリーが分からなくなることがありません。謎がきちんと提示されているのですが、サスペンスの要素が強く、ミステリというよりも、ロマンス小説に近いです。キャラクターは類型的ですが、エンディングまでエンターテインメントの定石に則っていて、飽きさせることがありません。
とはいうものの、主人公が30代の女性であることから、読者もそれを対象にしているようで、勉強になり面白かったのですが、この作家の作品はもう読むことがないよな、と思ったところで☆☆☆★です。
『静かな炎天』若竹七海,文春文庫,2016――貴重な私立探偵小説
私立探偵・葉村晶の「青い影」「静かな炎天」「熱海ブライトン・ロック」「副島さんは言っている」「血の凶作」「聖夜プラス1」とタイトルの6つの短編をおさめた短編集。
私立探偵ミステリは、刑事ものや謎解きなど他のミステリに比べて少なくなってきています。海外ではベテランしか見られません。おそらく売れないのでしょう。また、探偵に殺人事件を絡ませるのは非常に難しく、リアリティがつかめないためなのかもしれません。刑事ものでしたら不自然ではないですからね。
そんな中、このシリーズは貴重です。私立探偵がいて、依頼人がいて、事件などの意外な展開があり、ちょっとした意外性のあるオチで終わる。これがすべての作品に当てはまるのですから、もう読むしかありません。小品ながら☆☆☆☆とオススメです。
『世界まんが塾』大塚英志+世界まんが塾(浅野龍哉、中島千晴、斉夢菲),KADOKAWA,2017
大塚英志氏は、いわゆる「マンガ工学」というようなものの確立を目論んでいるようで、本書もその一つです。中国・台湾・フランスでマンガ(本書では「まんが」表記)塾を開催し、石森章太郎の『龍神沼』のシナリオをもとにマンガを描いてもらい、どのように異なるのか、どのようにしたら読みやすく面白くなるのか、そして結果的に国によってどのような傾向があるのかが示されていきます。
さまざまなコママンガが示されてるので、読んでいて非常に疲れました。1~2章分をよむと脳がグッタリしてしまいます。
『二階の住人とその時代―転形期のサブカルチャー私史』大塚英志,星海社新書,2016
大塚英志氏が漫画家を目指しつつ、徳間書店のマンガ雑誌の編集者のアルバイトに誘われ、2年間ぐらい働いていたときの、『アニメージュ』を中心にどのようにオタクの「評論」文化が作り出されてきたかを自身の経験や見聞きしたことを交えて語ったもの。あの時代の『アニメージュ』を読んでいた人なら誰でも一気読みできます。
ちなみに中学生だった私にとっては、『アニメージュ』は『風の谷のナウシカ』の連載だけを楽しみにしていた雑誌で、青年マンガ、少女マンガ、昔のマンガなど広大なマンガ世界をさまよっていたため(手塚治虫の『火の鳥』もその時出会います)、子供向けのアニメをそんなに夢中に見ておらず、そのほかの記事はほとんど読んでいませんでしたが、本書の内容はそんな人にとっても興味深いです。
タイトルの『二階』ですが、徳間書店のビルの2階に編集部があったため、そこに集まってきたアニメを評価する人々を住人を示しています。
確か、『アニメージュ』を創刊・初代編集長である尾形英夫氏の『あの旗を撃て!―「アニメージュ」血風録』で、その本が手元にないので正確ではないのですが、大塚氏のことを、たまにやってきて演説をして帰っていく変わった人物だったというように説明していたのを覚えていて、本書がその時代について書かれていて、しかも、なんとジブリの鈴木敏夫氏の要請で『熱風』で連載されたものとあとがきで読んで、書店で見つけてすぐに読み終わりました。
大塚氏は誠実でこの内容がすべて正しいと主張しません。タイトルに「私史」とつけるのはあくまでも自分の視点から見たものであるという主張です。大塚氏が見た以外の事実があるはずですし、大塚氏の解釈もすべてが正しいとは限りません。しかし、たとえば、上映会文化がオタクコミュニティを広げたのではないか、という論考は、「あの時代」の一面をするどく示していると思います。
二階の住人とその時代 転形期のサブカルチャー私史 (星海社新書)
- 作者: 大塚英志
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/04/26
- メディア: 新書
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『風立ちぬー宮崎駿の妄想カムバック』宮崎駿,大日本絵画,2015
映画『風立ちぬ』の原作マンガ。これが原作だったとはまったく知りませんでした。これを鈴木氏が読んで映画化を提案し、宮崎氏はいったん拒否したのは頷けます。原案があって、どのように映画に耐えうる物語にしていったのか、映画でどこを削除したのかがわかって面白いです。