ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『日本溶解論―ジェネレーションZ研究 この国の若者たち』三浦 展, スタンダード通信社、プレジデント社、2008(○+)

日本溶解論―この国の若者たち

日本溶解論―この国の若者たち

■オッサン世代の考えを知る

 いったい、筆者は何を知りたいのか分からない。もう少し、「おそらく、若い世代がこれ以上不可解になることに対して、あるいは、これからもっと不可解な若者を生み出し続けるであろう社会の溶解、液状化に対して、私には抵抗があるのだと思う」(帯より)と思う前に、もっと考えることがあるのではないか。筆者が勝手に若者を分からない存在にしているだけとしか思えない。社会が「溶解」していると思っているだけを見ている、あるいは見ようとしかしていない。

 団塊を中心とする「おっさん世代」が若者をどう思っているか、「敵」の考えを理解するためのものとして良書です。筆者は、頭が良すぎるがための障害にかかっているのでしょう。よさこいを踊る若者」の多くが、なぜ福祉系の仕事に就いているのか、もっと違った分析をするべきではないのでしょうか。いや、本書は、そういう現象があるということを調査報告した点において価値があるので、それは他の社会学者や心理学者がするべきなんでしょう。だから、「溶解」なんていう言葉は使用するべきではないと思うんです。

 時々こぼれる、筆者のホンネが面白いですよ。「そういう意味でよさこいを踊る若者たちは、まじめで、ポジティブで、社会を維持運営していく上で不可欠な人たちである。うがった見方をすれば、偽政者にとって都合のよい人たちであるとも言えるが、三十代になっても無職で親のすねをかじっているのにもかかわらず殺人を犯すような人間がいる時代、よさこいを踊る若者のいきいきした姿はとてもすがすがしいものである」(150頁より)。

 どうして、あの団塊世代をきちんと糾弾した筆者が、地方のファスト風土化を憂えた筆者が、このような分析をするのでしょうか? これを、スクラップになってしまった地域文化を必死でスクラップド&ビルドする試み―成功しているか失敗しているかはともかくとして―とも考えられるのではないかなとも思うのです。もっと肯定的に、そして如何に若者たちが弱者となって怯えているか、捉えることができるのではないでしょうか。

 しかし、何となくですが、世代論における三浦展氏、オタク論における大塚英志氏、サッカー界における杉山茂樹氏は、それぞれ活躍するフィールドが異なるのにもかかわらず、考え方というか自らもつスタンスが似ているような気がします。皆さん、頭が切れすぎるところですかね。