ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『日本を降りる若者たち』下川裕治、講談社、2007(○)

日本を降りる若者たち (講談社現代新書)

日本を降りる若者たち (講談社現代新書)

■「外こもり」をする人たち

 「日本を降りる」とは、いわゆる日本を脱出して海外の安宿や安アパートで仕事も何もせずに暮らすことをいう。このテーマで、深夜テレビのドキュメント番組で放送されていたのを見たことがあって、「羨ましい」と共感し、興味をもっていたのである。テレビでは、若者ばかりではなく、老夫婦の取材していた。どういう一日を過ごしているか、どのような食事をとっているかなど行動を見せていた。

 本書で、それを保管してくれることを期待していたのだけど、筆者がすでに分かり切ったこととしてスルーしているのか、それとも、そういう若者たちの心は傷ついているのをさらに大きくすることに気が引けるのか、あまりつっこんだ取材はしていない。ただ、テレビを見ていない人にとっては、「外こもり」というのがどういうことなのか、どうしてそうなってしまうのかがよく理解できるだろう。

 正直いって、私も、社会人になってこんなに勉強しなくてはならないのか、効率性を求められるのか、人間関係に気を遣わなくてはならないのか(めちゃくちゃ苦手なことなのに)、身体も精神も傷つけてまで働かなくてはならないのか、そして働かないことに対して、どうしてそんなに白い目で見るのか、よくわからない。お勉強のための本が売れているけど、どうしても心が追い込まれていすぎてはないかと、痛々しく感じてしまう。

 そういう環境で生きていくことができる頑丈な神経をもち、勝者である人にとっては、まあいいだろう。でも、そんな環境ではないどこかがあってもいいのではないか。身体も神経もお金も使用せず、前述の人に「それで生きているといえるの?」と非難されそうな人生でもよいではないか、と思う。

 本書は、そんな人のためのノンフィクションです。