ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『ひげのある男たち』 結城昌治、東京創元社、1959→2008

 結城昌治の処女作。純粋な謎解きミステリ。評判が高かったものの、なかなか手にはいることなく、スルーしていましたが、創元推理文庫で復刊されたものを読みました。

 この創元推理文庫の復刊のシリーズは、先日取りあげた『切断』のその一つで、非常に嬉しいセレクトになっています。個人的には、樋口有介氏の柚木草平シリーズの復刊がもっとも嬉しかったですね。

 このシリーズは、おそらく少部数なのでしょうが、価格を高くして、依頼原稿ではなく、古い原稿を復刊させ、ファンにだけ手に届けばよいようにして、利益を上げるものだと思われますが、うまい商売をしているなと感心します。

 23歳独身女性の水沢暎子が、遺書は発見されなかったため、青酸カリの服毒自殺として発見された。アパートの管理人は、ある男から暎子に電話があり、暎子の部屋に呼びに行ったところ死体を発見し、遠藤巡査に知らせに来たという。管理人によると暎子は、両親と死に別れ、親類もおらず、独りぼっちであり、ナイトクラブに勤め、同じアパートに住むチンピラの平野という男、私立探偵の香月などと何らかのつながりがあるとのことだった。
 郷原部長刑事たちが捜査を始めるのだが、部屋に指紋が発見されなかったことなどから、殺人を疑う。郷原らは、遺体を警察より早く発見した香月に情報提供するように言ったところ、警察が得た情報と交換という条件をつけたため、警察はそれを呑む。香月は、昨日、暎子は自分につきまとう男がいると言ったところで帰っていったというのだ。
 その後、捜査を進めていくと、暎子を訪ねてくる男として、ひげのある男を複数していることがわかった。付けひげをしていた、ひげを剃ってしまったなどさまざまな可能性があり、犯人が断定できなくなってしまった…。そうこうしているうちに、第2の殺人が起こる…。
 後半、容疑者が徐々に揃いつつも、犯人を特定する決定的な証拠が見つからず、警察はイライラするわけですが、そこに乗り込んできたのが、私立探偵の香月で、犯人は明日自殺をするだろうと予言をしていく。ますます訳がわからない。最後、犯人は自殺してしまう。香月は、さまざまな条件から、消去法で犯人を特定する…。

 というわけで、私も全く犯人がわかりませんでした。極めて論理的に犯人を指摘できる訳なのです。何がトリックかというと、一人二役など、一言でいえるものではなく、容疑者としてあげられた以外の人物が犯人で、かといって、検事ですから、とびきり意外というわけではなく、でも現実的ではない。そういう意味で、☆☆☆☆の絶妙なところであります。

 『大いなる幻影』のときも感じましたが、松本清張を代表とするこの時代のミステリは、現代よりウエットではなく、むしろスマートささえ感じ取れるのは何故でしょう? 視覚的に具体的な描写が少ないため、かえって古びていないのでしょうか? また、現代風にいえば、フラットなキャラクターになっており、それが人物に深みがないという批判になっていたのですが、それはおいておいて、普遍的な人物像で現代でも共通点が多いかのように感じられるためなのでしょうか? これは検討する余地があるでしょう。

ひげのある男たち (創元推理文庫)

ひげのある男たち (創元推理文庫)