ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『笑う男』ヘニング・マンケル,柳沢由実子訳,創元推理文庫,1994,2005ーー面白さが高村薫の初期の合田シリーズと似ている

 非常に面白い小説でした。久しぶりです。ネットを中途でやめて続きが気になって読んでしまうなんて。20年以上前の小説とは思えません。とにかくキャラの描写のレベルが高く、コナリーと比べても素晴らしいのですよ。主人公の父とのコミュニケーションや警察組織の上司とのやり取りなど、やり切れなさが本当に読者の心をざらつかせてくれます。

 途中で「これは面白いけど強烈な謎が提示されていないし、謎解き論理もないし、ミステリかな?」と疑問にもっていましたが。

 イースタ警察署の警部のクルト・ヴァランダーに友人の弁護士のステン・トーステンソンがその数週間前に車の運転で道路から逸れて畑の中へ突っ込むという交通事故で死んだ父のグスタフのことを調べてほしいと訪ねてきた。ヴァランダーは断ったが、その数日後、新聞にステンが深夜に弁護士事務所で銃で撃たれて殺された記事が掲載された。ヴァランダーはその犯人を逮捕することを決意し、警察の中でこの二つの事件は関連性があると主張した。捜査では新人の女性刑事のアン=ブリット・フーグルグントと組むことになった。

 そんな折、トーステンソン親子の秘書の家の庭に地雷が仕掛けられて爆発事件が起こった。さらにトーステンソン親子あての「不正をおぼえているぞ」という脅迫状が見つかった。さらにヴァランダーの自動車にも地雷が仕掛けられた。いったい犯人は誰なのか? 脅迫状を出したと思われる男は自殺している。手がかりがないが、グスタフの依頼人を徹底的に調べることから始める。

 それらの状況から、大物実業家が疑わしき人物として浮かび上がってくるのだが、証拠は全く見つからない。ヴァランダーの上司は、大物実業家への捜査を控えるよう仕掛けてくる。ヴァランダーは証拠をつかむべく、大物実業家のもとへ向かうのだが……。

 このキャラクターが心に沁み込んでくるテイストは何かに似ているなあ、と感じてしばらく探っていくと、高村薫の初期の合田シリーズに似ているのではないでしょうか。この主人公の刑事が状況判断とキャリアの中でつかんだ違和感から犯人を特定するところが、実に似ています。普通、このような推定をするとアンフェアな感じがしてつまらないのですが、合田シリーズや本書はそれが全くありません。

 とにかく最初がグタグタしていて読み進めるのが困難なのですが、事件が生じる40ページから、一気にスタートします。そこから最後まで離れるのは困難になります。それでもミステリ的要素が薄いという意味で、☆☆☆☆です。

笑う男 (創元推理文庫)

笑う男 (創元推理文庫)