ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『パンドラの匣』トマス・チャステイン, 後藤安彦訳,早川書房,1974→1978

 カウフマン警視シリーズの第1作目の作品。いわゆる大規模警察捜査モノといってよいのだろうか。訳者あとがきによると、本作はカーに激賞されたらしい。それで興味をもって読みました。

 元刑事で現在私立探偵のスパナーは、保釈金貸付業者からグリフィスという逃亡者を探し出して捕まえて欲しいと依頼を受けた。探し出したグリフィスは、偶然バーで聞いた数百万ドルの強奪犯罪計画の情報の提供を申し出たため、スパナーはカウフマン警視の前で証言させるが、カウフマン警視は当然のごとく信用しなかった。しかしその後、グリフィスの言うとおり、メトロポリス美術館で火災が発生し、5つの名画が盗み出されてしまったのである。犯人を追ったものの逃亡されてしまった。16分署の署長カウフマン警視は大捜査を行う。

 警察小説の歴史を鑑みると、だいたい87分署シリーズから始まるわけだけども、本作は翻訳時に話題になったわりには、その後のオールタイムベストなどには選ばれないなあと不思議に思っていた。しかし、読んでみて、その理由がわかりました。とにかく、ストーリーがスムーズではないのだ。87分署シリーズやマルティンベック・シリーズ、ローレンス・サンダースの作品などは、とにかくリーダビリティが高く、スムーズなのだけど、本作は一つ一つの描写が細かく、こんなに必要かなと思ってしまうほど。読み終わって思うのは、やはり人物の描写はこんなに必要ないですね。

 犯人が用いるトリックも当時としては斬新だったかもしれないけれど、正直いえば「ルパン三世」とどっこいどっこいで、コミックトリックといってもよいと思う。捜査方法も、金に飽かすというもので、ちょっと残念。つまり、人物キャラ設定など新しく見えるけれども、軽くて古くさいのである。サンダースの『第一の大罪』などは、未だ鮮度を保っているのにもかかわらずだ。

 しかし、当時としては、この大規模捜査犯罪というのは新しかったのだろうか。その後に追随者が続々現れたために古くさく感じたのだろうか。残念だけど☆☆☆というところである。

パンドラの匣 (ハヤカワ・ミステリ 1300)

パンドラの匣 (ハヤカワ・ミステリ 1300)