ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『甦った女』レジナルド・ヒル, 嵯峨静江訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1992→1997.

 訳者あとがきによると、レジナルド・ヒル20作目かつダルジール警視シリーズ12作目の作品。本作は27年前のクリスティの小説のような殺人事件の再捜査をするところから始まります。私は、ここのところ続いて昔の事件の再捜査というミステリを手に取っていることになります。小説の設定として書きやすいと思われます。

 1963年、ラルフ・ミックルドア男爵邸でハウスパーティーの前日の深夜、客の外交官のジェームズ・ウェストロップの妻のパメラが密室で遺書を残し、胸に銃口を押しつけたショットガンによって自殺かと思われる死体で発見された。

 すぐさま警察が呼ばれ捜査が始まると、ウェストロップ家の二人の子どもの乳母であるシシリー・コウラーの部屋にあったタオルについていた血痕がパメラのものであったため、パメラを容疑者として尋問にかけた。パメラとコウラーは二人ともラルフ・ミックルドア男爵を熱愛しており、借金をして政略結婚をしようとしていたミックルドアがコウラーといっしょにパメラを殺したと、コウラーは自供した。そのためコウラーは終身刑となった。その後、コウラーは刑務所内でダフネ・ブッシュという女を殺害した。

 27年後、シシリー・コウラーのいとこのワッグズがコウラーの殺人は冤罪であると訴えた。上司の命令によりしぶしぶ捜査を行うダルジールとパスコー。なぜ今になって無罪を主張したのか? 他に真犯人はいるのか?

 ここからは本書の内容を紹介していますので、未読の方はご注意を(といっても、私の感想はそのようなものばかりですが、今回は念押しに)。ちなみにヒルに興味を持っている方は、本書を最初にとることは避けた方がよいでしょう。しかし、必読の作品ですよ。

 カバーの本書紹介のリードでは、「海を越え、歳月を超えて甦る“黄金時代の殺人”」「円熟の筆致が冴える本格大作」とあり、決して間違いではありませんが、その印象とは異なる不思議な読後感が残る作品です。事件はすべては解明されないのですが、物語は読者にも納得した上できちんと終わるのです。

 この事件が解明されないけど奇妙な満足感を「どこかで味わったことがあるな……」としばし考えたところ、意外なことにチャンドラーの『長いお別れ』でした。そこで、本棚を探したのですが、『ロング・グッドバイ』も見つからず……。おおよその記憶ですが、『長いお別れ』のラストシーンは、マーロウが推理を見せるのですが、たしか細部は異なるが大体あっている、というようだったと思います。しかし物語としては、それでよかったわけです。本書も同じで、ダルジールが推理を披露するのですが、あくまでも憶測なので真実なのか判断できません。しかしそれで良いのです。そのように納得できる物語でした。

 もっとも謎解きミステリとしては、フェアではありませんので、あまり良いことではなく好みではない人もいると思うのですが、面白さを加味して評価は☆☆☆☆です。

甦った女―ダルジール警視シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

甦った女―ダルジール警視シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

↓こちらは『死にぎわの台詞』レジナルド・ヒル, 秋津知子訳,早川書房,1984→1988
http://d.hatena.ne.jp/hoshi-itsu/20110915