ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『撃たれると痛い』パーネル・ホール, 田中一江訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,1991→1995.

 私立探偵スタンリー・ヘイスティングズ・シリーズ第7作目の作品。スタンリーはひかえめ探偵と呼ばれていますが、俳優を目指しているけれど売れないため、自分ができ時間が融通できる探偵という仕事をパートタイムで行っているという印象。

 メリッサ・フォードという野暮ったい女が自分の恋人のデイヴィッド・メルローズのバックグラウンドを調べるようスタンリーに依頼した。スタンリーはデイヴィッドを尾行したところ、恋人と会っているところを目撃した。その調査結果をメリッサに伝えたところ余計なことをするなと憤慨され、調査を打ち切られてしまった。その翌日、なんとデイヴィッドが自分のアパートで射殺された。警察はそれを通報したメリッサを犯人と疑うのだが……。メリッサの無罪を信じているスタンリーは、依頼人がいないにもかかわらず、デイヴィッドが会っていた男を尾行すると、ドラッグの売買をしているようだった……。

 本シリーズは軽ハードボイルド小説の一つで最近はなかなか書かれません。軽ハードボイルドはまだまだ需要はあると思うのですが、不自然ではない設定にするのが難しいのでしょう。このシリーズを読んでいると、現代にクール&ラム・シリーズをなんとか成立させようと頑張っているように思います。パーネル・ホールの筆致は、決して苦労しているんではなく、翻訳でもはっきりわかるくらい軽く、読者を飽きさせないように細かく描写します。

 私立探偵としてのわたしの欠点のひとつは、ちょっとばかりお人好しすぎて、他人の話をうのみにするところだ。ややもするとこの癖が顔を出すので、すこしは人を疑い、ものごとの裏を考えるように努力している。だれかの話を聞くときは、その人物が、証人、容疑者、友人、あるいはわたし自身の依頼人のだれであっても、真実をいっているとはかぎらないのだと自分にいいきかせなければならない。(120頁より)

 本作は、とくに依頼人のキャラ、筋の運びがラム・シリーズにそっくりで、ファンにはたまりません。が、しかし本当にとりたててトリックはありませんでした。犯人も拍子抜けで☆☆☆というところです。

撃たれると痛い (ハヤカワ・ミステリ文庫)

撃たれると痛い (ハヤカワ・ミステリ文庫)