ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

C級のA級私立探偵物語――『ララバイ・タウン』ロバート・クレイス, 高橋恭美子訳、扶桑社ミステリー,1992,1994,☆☆☆

 ロバート・クレイスは処女作の『モンキーズ・レインコート』が翻訳されたとき読んでいたのですが、ストーリーがよく理解できなくて、それも何度も遡ったにかかわらず、これは自分と相性が悪い作家に分類して、手に取らない作家に認定していました。

 今回手に取ったのは、どうしても私立探偵小説を読みたい気分だったのですが、たまたまブックオフの100円棚で「あれ、こんなに翻訳されていたの?」と見つけたからです。偶然のセッティングであり、シンクロニシティってやつですね。

 もう少し文学的かという先入観があったもので、冒頭のB級、いやそれより一段落ちるのですからC級の文章で驚きました。『「パトリシア・カイルが言った。「エルヴィス・コールさん? 世界一優秀な探偵の」』(9頁2行目より)ですからね。そんなオープニングあるかい。あくまでも読者たる私が悪いのですが。こんなに軽い作品だとは意外でした。

 ロスの私立探偵エルヴィス・コールに世界的映画監督のピーター・アラン・ネルソンが自分の無名時代に息子をなし離婚した元妻を捜してほしいと依頼があった。なかなか映画を撮ることができず、自分のお金に群がる人々ばかりになったため、無名時代のことが気になったらしい。エルヴィスは、妻のカレンの知り合いからカレンの手紙を見せてもらい、そこから飛行機で2時間離れた街で、あっけなくカレンと息子のトビーを見つけることができた。しかし、カレンはピーターと会う気はないという。絶対会いたいというピーターであったが、カレンには自分の生活を乱されたくないという理由の他に、どうやらマフィアに脅され、現在の銀行員を止めることができないことがわかる。エルヴィスはピーターを説得し、カレンを救うことを決意するのだが……。

 テレビドラマのような展開、特質すべきキャラクターがいない、ということで☆☆☆というところです。ファン以外はきついんじゃないのかな……。もうちょっと意外性が欲しいなあ。ミステリになっていないんです。このような探偵小説がありうる時代だったんですかね。探偵にボディガードがついているなど、いかにもロバート・B・パーカーの影響を受けていて、アメリカの軽ハードボイルド好きには必読です。私は次の作品も読んでみます。

ララバイ・タウン (扶桑社ミステリー)

ララバイ・タウン (扶桑社ミステリー)