ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『希望荘』宮部みゆき,文春文庫,2016,2018ーー移動する私立探偵

 『誰か』『名もなき毒』『ペテロの葬列』に続く杉村三郎シリーズの第4弾。前作で心に傷を負い仕事を失った杉村は私立探偵事務所を開設する。その経緯を含めた4つの事件を中編で収録したもの。タイトルはそれぞれ「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身(ドッペルゲンガー)」で,杉村はいまだ探偵のプロというよりも,その入り口にいるという感じで,近辺や過去の知り合いから,依頼を受けるという形をとっています。

 僕としては,近所であるとか,大家であるとかという理由で,こんなにコミュニケーションをとっているものかな,話が進んでいくものかなという疑問をもちました。もっとドライで孤独なものではないでしょうか。

 ミステリとしては,私立探偵ものらしい,探偵が移動し,話をして,情報を得て,その情報をもとに,移動して,話をして……というものになっています。読者としては,その情報がどのような意味をもつか,一つひとつ吟味していかないと置いて行かれることになります。そのような意味で,成功しているといえるでしょう。というわけで,☆☆☆★です。

希望荘 (文春文庫)

希望荘 (文春文庫)