ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『少年犯罪の深層―家裁調査官の視点から』

少年犯罪の深層―家裁調査官の視点から (ちくま新書)

少年犯罪の深層―家裁調査官の視点から (ちくま新書)

家庭裁判所調査官による少年犯罪について記したもの。僕は,少年犯罪も家裁をテーマにしたものも読んだことがないのでとても勉強になりました。
最初の方でアスペルガー障害者による犯罪を示唆し,脳と犯罪の関係を示し,非行の変化しつつある原因について述べています。著者によると非行や犯罪の要因として,以下の三要因が挙げられるとしています。

  1. 生物的要因(脳の器質的障害)
  2. 心理的要因(家族との別離や学校内のいじめられ体験など,「子どもが罪を犯すのは,親の育て方のせいだ」)
  3. 社会・文化的要因(遊び仲間などの影響,「犯罪はつまるところ,社会悪の産物だ」)

このなかで,心理的要因,社会・文化的要因については,社会的合意がとれているのですが,さまざまな社会的制約から,生物的要因の考察がきちんとなされていないのだ,としています。これはパンドラの箱を開けるようなもので,著者は読者に対して誤解を与えないよう慎重な記述をしています。