ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う』

証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う (中公新書)

証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う (中公新書)

昔,出版社の営業の仕事をしていたとき,詐欺があったんです。といっても,私自身が被害者になったわけではないんですが。あるとき,電話で注文を受けたんです。
「『○○』を20部だけ送ってくれ」という書店からの注文だったのですが,その『○○』という本はまったく売れるような商品ではなかったんです。変だな,おかしいなとは少し感じたのですが,「まあ,いいか,その著者のフェアでもするのかな」と電話先に確かめることもなく,送るよう手続きをとったわけです。
その1か月後ぐらいでしょうか。やはり書店から電話がかかってきて,「『○○』の注文を受けた人をだしてくれ」と。
それで私が受けたのですが,「『○○』の注文の電話があったのかい?」と訊いてきたので,「そうです」と答えたんです。
「それ,どんな人だった?」とまた訊かれ,なんでそんなことを訊くんだろう,随分前のことだからなあ,と首をかしげつつ考えると,けっこう思いだせるもんなんですね。頭の中で,電話の声がよみがえってきたんです。
「なんとなく特徴のある声だから思いだしました。少し中年の男で,甲高い声でしたよ」と言うと,先方は「やはり…」と相づちをうってきました。
「どういうことなんですか?」と改めて訊くと,「どうもいたずららしいんだよね。うちの書店を騙って,勝手に注文を取っている奴がいるみたいなんだよ。それで,いろいろなところへ電話して確認を執っているところで。みんな同じようなこというから,どうも同一人物みたいだね」と説明されたわけです。
私はそのとき,人間ってけっこう記憶力があるもんなんだなあと感心しましたね。

本書は,このエピソードとは関係ないのですが,つい思い出してしまいました。
証言を立証するということ,これは非常に難しいし,でも,何とかできることもあるのだなあと。証言の質的研究といっていいんでしょうかね。