ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『春期限定いちごタルト事件』米澤穂信、東京創元社、2004

 高校一年生の男の子・小鳩君と女の子・小佐内さんを主人公にした連作短編ミステリ。殺人事件ではなく、いわゆる日常の謎を解く物語で、5本の短編が収録されています。校内で女の子のポシェットが消えたので探したり、卒業した先輩が高尚な絵だと言い残したセル画(のようなもの)の謎であったり、カップ二つでおいしく暖かいココアの作り方の謎などを解いていきます。推理法も、状況だったり、心理だったり、さまざまな側面から、スパッとしたものです。

 本作品の魅力は、主人公2人の性格でしょう。彼らは、どうやら、みんなの前で中学時代に謎解きをして苦い経験を味わったようで、高校入学してから「小市民」として存在しようとして、自ら目立たないように、周囲と軋轢を生まないように、生活しようと決意しています。その当たりの自意識過剰さがむき出しであり、読んでいると気恥ずかしくなるのですが、ある種の感慨さを醸し出してくれます。☆☆☆です。

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)