ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『わが心臓の痛み』マイクル・コナリー, 古沢嘉通訳,扶桑社,1998→2002

 マイクル・コナリーの第6あるいは7作目の作品。発表時はノンシリーズでしたが、本作の主人公の元FBI捜査官テリー・マッケイレブはもう一つの作品で主人公をつとめたり、コナリーの他シリーズでも出ているらしい。コナリーのお気に入りのキャラなのでしょう。

 心臓移植を受けた元FBI捜査官のテリー・マッケイレブは、その心臓を元の持ち主の姉と名のる人物に妹の殺人犯の捜査を依頼された。その妹はコンビニ強盗によって射殺されたとのことで、警察ではほとんど捜査されてはいなかった。マッケイレブはFBIや警察など元の人脈を利用して、関係者にあたったり、関係物品の資料にあたったところ、どうやら強盗によるものではなく、計画された強盗殺人ではないかと思われたのである。そして、その犯人として、マッケイレブ本人が疑われたのだった……。

 フリーの主人公が捜査を行う理由としてはベタな感じすらします。しかし犯人を追いつめる過程は、地道に関係者にあたるもの、遺留品の科学的分析、殺人現場のビデオ映像の解析など、非常に現実的なものです。これらの捜査方法は現在のテレビドラマでは駆使されているためか、パソコンを使用していないので、古くささを感じますが、例えばホームズの時代の捜査法のように、そういうものと割り切ってしまえば面白さは減ることがありません。

 そういえば、なんとマッケイレブは松本清張を読んでいる描写がありました。マッケイレブが、希少なタイプの血液型であったことから、ドナーの関係者に見つけられてしまうのですが、それ自体がきちんとつながっており、殺人犯の動機につながっています。この連続殺人事件の動機・方法はアガサ・クリスティの変形であり、クラシカルな感じもしました。

 とはいうものの、犯人像は意外性が薄く、少しガッカリした感は否めませんでした(私は別の人を犯人だと考えていました)。分量が多かったのでもう少し短くてもよかったなー。私としては、心臓を提供されたからといって、そんなものに協力する必要はない、というような悪態をつくキャラのほうが好きなので、☆☆☆★というところです。

わが心臓の痛み〈下〉 (扶桑社ミステリー)

わが心臓の痛み〈下〉 (扶桑社ミステリー)

わが心臓の痛み〈上〉 (扶桑社ミステリー)

わが心臓の痛み〈上〉 (扶桑社ミステリー)