ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『放浪のリトル・ドッグ』ジョゼフ・ハンセン, 小林宏明訳,早川書房,1986→1988

 デイヴ・ブランドステッター・シリーズ第8作目の作品。多分、過去7作は読んでいると思うけど、きちんと記録を取っていないので……。このようなとき、ブログをやってて良かったなと感じる。検索すると2008年に『ブルー・ムービー』が引っかかるけど、それを読んでも、ぼんやりとしか思いだせん。

 それでも、「原木に近い未加工のスギの梁が、こけらをふいた屋根やたいらな厚板の屋根を支えている豪華な分譲マンション。陽光が、大きなガラスの下鬼面に反射して輝いている。(9頁より)」から、よくある文体のように見えながら、「これぞハンセン」しか持っていない風景描写・文体に引き込まれます。私にとっては、ハンセンは、文体の作家です。

 ジャーナリストのアダム・ストリーターが自殺したが、その娘のクリーシーはそれを信じていなかった。アダムの遺品から資料などが消えていたことから、デイブはクリーシーに殺人犯人の依頼を行う。アダムは、中南米の麻薬販売が氾濫している国について取材していたらしい。それに巻き込まれたのではないかと疑うのだが……。

 被害者の娘が自殺の真相を調査を依頼する冒頭から、緊張感があふれています。途中から中南米の戦乱が絡むところは、『犬の力』を思い起こさせます。個人の一人語りがないなど無駄な展開がなく、端正な作品という意味で☆☆☆★です。