ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『灰夜――新宿鮫?』大沢在昌,光文社文庫,2001→2004

 新宿鮫シリーズは確か『炎蛹』あるいは『氷舞』まで、ほぼリアルタイムで追っていたのですが、そのあたりでワンパターン化して飽きてしまって、その後手に取らなくなりました。大沢氏の作品そのものは、例えば『闇先案内人』のように時折話題になったものは読んでいますが。

 本作は、新宿鮫シリーズ第八作めの作品。『風化水脈』が先に書かれたのですが、本作の文庫収録が先になってしまったので「?」とナンバリングしたようです。というのは、本作は舞台が新宿ではなく、鮫島が九州の一地方都市(鹿児島)に元同僚の宮本の七回忌で訪れた際に、巻き込まれた事件だったので、おなじみのキャラクターが一切登場することなく、シリーズのスピンオフ的な位置にあり、ナンバリングを入れ替えても影響がないと判断したのでしょう。

 鮫島が郊外の牧場にある動物の檻のなかで意識を覚ますシーンから始まります。どうやら拉致されて意識を失っていたことがわかります。それから、拉致されるまで、同僚の七回忌で訪れ、そこで会った宮本の父に紹介された幼なじみの男に誘われて酒を飲み、ホテルを紹介され、そのホテルで拉致されたことを思い出す。拉致された理由が全くわからない鮫島は脱出をはかり、その真相を探るのだが……。

 本作は孤立無援で捜査をする鮫島は、さながら私立探偵のようですが、読みながらこのシリーズは、ハードボイルドというよりも、むしろエルロイに近いのではないと思うようになりました。麻薬取締官、県警の刑事、地元の暴力団などが複雑に自らの利益を求めて複雑に絡み合うストーリーで、臨場感あふれる会話はノワールのようなのです。というわけですが、一人一人のキャラクターが類型的に感じてしまい、中途で誰が誰なのかわからなくなってしまったので、☆☆☆というところです。

灰 夜 (光文社文庫)

灰 夜 (光文社文庫)