ウィリアム P.マッギヴァーンは第二次世界大戦後に活躍したミステリ作家で,主に悪徳警官ものが多いとされています。
日本の翻訳ミステリは,戦後から本格的になりますが,最初は戦前から引き続き,クリスティ,クイーンなどの謎解きものから紹介されていきますが,たとえば『幻の女』のように謎解きでないため紹介されなかった,サスペンス,スリラー作家がどさっと翻訳されるようになります。
アメリカのテレビドラマや映画と同じ種類のものなのでしょう。謎解きはマニアが好きなだけで一般人はむしろサスペンス,スリラー,警官もの,スパイものが受けるわけですから,こちらが翻訳物の主流になったように感じます。
マイク・ハマーやイアン・フレミングがベストセラーになったわけです。それにより,類似する作家群がたくさん紹介されたようです。
マッギヴァーンはその時代に,同時代の警官もののミステリ作家として紹介された一人です。私は初めて読む作家で,もっと牧歌的なイメージをもっていたのですが,本書を読んで,あまりにも本格的な大時代的なハードボイルドの文体,悪徳警官の描写,ギャングとの抗争が書かれていて驚きました。
その日は,第31番街署の刑事たちにとって,元同僚の刑事のスチーヴ・レトニックがやっていない殺人で逮捕されてから5年たち刑務所から出所する日だった。レトニックは警官の罠にかけられたのだった。出所したレトニックはジョー・ヴェントラ殺しの真犯人を捜すべく手がかりを求めた。ヴェントラは当時ギャング団の縄張り争いのまっただ中にいたギャングの手下だった。執念をもって真相を暴こうとするのだが……。
とにかく,行動と会話の描写だけで物語の説明をしないため,映画のようであり,なかなかストーリーをつかませんでした。また翻訳もたとえば「君は,僕がヴェントラを殺したと信じているのか」(39頁より)というような高貴なる人物群のようは口調のため,それを頭の中で翻訳しながら読んでいたのでストーリーをつかむのに少々疲れました。というわけで,☆☆☆というところです。