折原一氏の作品は何を読んで何を読んでいないか、わからなくなってしまいましたが、おそらく半分ぐらいは読んでいるかと思います。そして読むたびにいつも思うのは、 「なんて上手い文章なんだろう」ということ。叙述トリックを中心とした作風が求めた文体なのだろうと思いますが、これだけ平易な言葉だけできちんと読ませるのは的確な描写、的確なリズムがあるためでしょう。というようなことも、本作で感じました。
本作は、松山ホステス殺害事件をモデルにした作品で、事故のような殺人事件で警察病院から脱走した女性が、時効までの15年間を、執拗に操作する刑事、DV気質の夫から日本中を逃げて回るミステリです。とにかくこの逃走が逮捕ギリギリのところを逃れており、サスペンスフルで飽かずに読ませます。こんなにうまく展開していくかなあとも思いましたが…。
次第に折原作品らしく、この事件が終わってから行われたように思わせる、主人公、夫、母親、形成外科医、逃亡先で知り合った男など、あらゆる関係者へのインタビューが挿入され、これらが意味があるようで意味が通らない感じがするなど、いったい真相は何なのか、と気になる仕掛けになっていますが、最後まで読んでみると、不明なところもあり☆☆☆★というところです。
傑作というわけではありませんが、とにかく時間つぶしには最適なミステリです。
- 作者: 折原一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/02/10
- メディア: 文庫
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