ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『騙し絵の檻』ジルマゴーン, Jill McGown, 中村有希訳,東京創元社,1987,2000(◎)

騙し絵の檻 (創元推理文庫)

騙し絵の檻 (創元推理文庫)

2人の殺人犯として投獄された主人公ホルトが,16年後仮釈放されるところから物語は始まります。殺された1人は幼なじみで人妻,たまたま関係を持ってしまった女性,もう1人が彼女を調査していた探偵だったので,ホルトは陥れられたのでした。ホルトは真犯人を探ろうと,関係者に一人ひとり当たっていくと…。
こう書きますと復讐小説のように感じますが,純粋な謎解きミステリであります。ホルトが復習のためというよりも真犯人は誰かというところに重きを置いているように感じますから。ジル・マゴーンは謎解き小説家ですからそうなるのでしょう。といっても,私はジル・マゴーンは初読なのですが。
うーん。トリックの評価とはいったいどうしたもんなんだろうと考えてしまいました。『容疑者Xの献身』で巷で評価されているほど傑作ではないのではないかという意見の根拠として,トリックに前例がありまくりで何でそれに気がつかないの,ということだったかと思います。
けれど,前例があってもしっかり騙されてしまったということを考えると私にとっては素晴らしい作品であるとしかいいようがないですね。トリックに前例があるないにかかわらず,そういう環境のなかで,いかに読者を騙すトリックを上手に用いた作品が評価されるということでよいのではないでしょうか。
そう考えてもこれがクリスティの一点だったならどうなのでしょうという疑問もつきまといます。それでも傑作なんでしょうか。傑作なんでしょう。クリスティがいかに偉大な作家であるか分かるなあ。話の運び方もうまかったですし。