hoshi-itsu’s 本にまつわるblog

「ほしいつ」です。海外ミステリが中心のブログです。下書きがなくなってしまったのが悲しい……。

 『星新一―一〇〇一話をつくった人』 最相葉月、新潮社、2007

 第29回講談社ノンフィクション賞、第28回日本SF大賞、第34回大佛次郎賞、第61回日本推理作家協会賞 評論その他の部門などを受賞したノンフィクション。作家の伝記+日本SF小説史+日本戦後史などさまざまな視点から愉しむことができます。

 気になったところをいくつか転載。

 すでにでき上がっている形に対する新解釈だの、独自の解釈による新しい人間像の想像だのいうのは、歴史家ならいざ知らず、作家としてはちっとも自慢にならないことだし、過去の人間への新しい生命を吹きこむなんていうのも、作家の仕事としては易きについた楽な仕事だし、人間の運命の変転は、歴史の人物によってしか語られないなどというのも、現代物の作家としては、逃げた態度だと私は、私たちは考えた(223ページより)

 これは、星新一とは直接関係なく、また星新一の発言ではなく、SFの見方に関連しているものとして挙げられている高見順の随筆から引用されたもの。現代ではない考え方ですよね。しかし、誰も口にしない本音なのではないでしょうか。それを昭和35年の時点で発表しているわけです。当時はやはり若かったというべきなのでしょうか。

 都筑道夫ショートショートという形式をアメリカから輸入し、小林信彦が商品化し、扇谷正造が援護射撃して広めたとのいうのが、初期のショートショートをめぐる構図だろう。(283ページより)

 新しい概念が広がるということは、それなりのプロセスがあるということですね。

 早川書房ではこのころ、福島正美の退社に伴って森優が「SFマガジン」編集長に就任し、雑誌の傾向をこれまでの文学SF路線から、スペースオペラ(宇宙活劇)やヒロイック・ファンタジイと呼ばれる大衆SF路線へと大きく方向転換しようとしていた。
 また、万博に合わせて「ハヤカワSF文庫」を創刊。(中略)子供向けといわれることを恐れて福島が排除してきた分野にこそ、SFの鉱脈があると森は考えたのだ。(398〜399ページより)

 昔のハヤカワSF文庫が、どういう経緯で創刊されていたのか、謎だったのです。というのは、ミステリの分野では日本のミステリを発行するのは希だったので(ポケミスで『黒死館』ぐらい?)。『SFマガジン』が提携していたアメリカの雑誌から契約料の値上げを提示されたため、その契約を解消し、英米以外のソ連や東欧のSFや日本のSF作家の発掘を始めたという流れを引き継ぐものだったことなのがわかります。これから現在までの日本SFの流れが繋がりました。

ジャッカルの日』で知られるフレデリック・フォーサイスが『オデッサ・ファイル』を発表したときにワープロ文学といわれたが、執筆スタイルとしては邪道といったニュアンスが込められていた。(421ページより)

 ワープロを駆使し始めたのは『オデッサ・ファイル』だったんですね。知らなかった。ちなみに『オデッサ・ファイル』は最近全く顧みられませんが、傑作でした。

 これまでにも異質な言葉を組み合わせて意外な状況を作り出すといったことを新一は書いたり話したりしているが、具体的な作業や方法論については明かしていない。たとえば、手元にある本をたくさん積み重ねてタイトルに使われている言葉を分解し、その言葉を小さな紙に書いてバラバラに混ぜ、ランダムに組み合わせて意外なものを見つける。自分は常々そんな作業をやっているのだと、新一はその日、江坂に明かしたのだった。
(中略)
 遺品から大量に見つかっているメモは、二センチ四方の小さな断片から銀行手帳サイズ、文庫本サイズ、B4判など、さまざまな大きさがあるが、断片的なメモの大半は、脈絡のない単語がいくつも鉛筆で書き留められており、「要素分解共鳴結合」を行った、あるいはこれから行うための材料だったと考えられる。(465〜467ページより)

 この「要素分解共鳴結合」について、この中略部分に詳細な方法が具体例をもって書かれています。KJ法の逆の方法論で必読です。

 さらに困ったことに、高校生や大学生ぐらいからの読者からも、あなたの作品の中で意味のよくわからないものがあるという問い合わせの手紙が届くようになった。わかりやすさを最優先して書いてきたのになぜだろうと考え、作品名を調べてみて、その原因がわかった。いずれも、「邯鄲夢の枕」や「ノアの方舟」のように、中国の故事や聖書の伝説、民話などの原典をもとに物語を作り上げたものだった。新一が子供のころは一般常識として誰もが知っていたが、そうではなくなり生じた問題らしかった。(483〜484ページより)

 作家が、時代から離れていくというのは、こういうことをいうのでしょう。このような、いわゆる基礎知識は、「ドラえもん」から多く学んだわけですが。先日、「レッド・クリフ」について、孔明周瑜の関係を「アマデウス」のモーツアルトサリエリだねと20代の人に話したところ、彼女は「アマデウス」を観たことがありませんでした。

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人