ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

ルース・レンデルの翻訳ラッシュの時代があった

英国ミステリー界の女王 R・レンデルさん死去
 英PA通信によると英ミステリー作家のルース・レンデルさんが2日、ロンドンで死去、85歳。死因は不明だが、1月に深刻な発作を起こし入院していた。

 英国ミステリー界の女王と呼ばれ、ウェクスフォード警部シリーズが有名。「わが目の悪魔」(76年)などが邦訳された。「ロウフィールド館の惨劇」(77年)を基にした「沈黙の女」(95年)など、映画化された作品も多い。(共同)
[ 2015年5月2日 23:38 ]
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2015/05/02/kiji/K20150502010281910.html

 あまり故人のことなどは書きたくはないのだけれど、忘れられている作家で自分が好きだった作家だけは言及しておきたいと思う。ルース・レンデルはそういった作家の一人だ。といっても、すべての作品を読んでいたわけではないのだが。

 ルース・レンデルの忘れられっぷりは、ものすごい。あれだけの質の高い謎解きミステリとサイコサスペンスミステリを書いていたのに。

 私が謎解きミステリを読み始めたぐらいのとき、角川文庫をメインに、ルース・レンデルの翻訳ラッシュがあり、その後期だった。確か多くの角川文庫と数冊の創元推理文庫、あと光文社文庫だった。角川文庫からはたしか日本オリジナルの短編集が出版されていたはずだ。古本屋にも多く出回っていたし、相当売れていたのには違いない。

 その後、突然どういうわけか、翻訳されなくなってしまい、目についたのがハヤカワポケットミステリで数冊。それでも書評などで、ある程度の評価は受けていたはずだが――私はそれを憶えていて数冊読んでいる――翻訳されなくなってしまった。

 本国でも出版されていないのかなと思っていたが、調べてみるとそうではないようだ。やはり売れなかったのだろう。また、翻訳書の場合、実は質が低くなってしまったため翻訳されないこともあるので、あまりいい作品ではなかったのかもしれない。

 代表作は、やはり『ロウフィールド館の惨劇』だろう。ルース・レンデルは、ウェクスフォード警部シリーズとノンシリーズのミステリを職人的に一年ずつ交互に書いてきた人で、女性らしくない商売上手な人だなあと思った。

 しかし、そのためかどうかクリスティやジェイムズのように、何か突き抜けた作品がなかった(クリスティは商売上手だったけど)。人間心理が上手いというけれど、やはりハイスミスと比較すると、人に人間心理異常小説の良いものは何かと勧められた場合、ハイスミスを勧めてしまう。

 そんななかで、『ローフィールド』は派手な一行目から最後まで一気にサイコサスペンスを押し進める名作だ。私は海外ミステリベスト10を選んだ際に、『ローフィールド』を挙げている。http://d.hatena.ne.jp/hoshi-itsu/20121104

 もちろん他にも素晴らしい作品がある。個人的には、『荒野の絞首人』もオタクっぽくって好きだ。ラストが良い気分になれない小説だから、その後読まれなくなったのはわかるけど、それならば、あの初期作はなんで売れたのか不思議だ。あまり先鋭的ではないサイコぶりが、日本のあのバブルの時代にたまたまマッチしたのだろう。その後の凋落ぶりは、時代からずれたためとしか思えない。

 いつか、また別の意味を付記されて、再評価されるだろうか。ハイスミスのように。作風がユーモア皆無、ギミック無しなので難しいか。