ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

2015-01-01から1年間の記事一覧

『サンドリーヌ裁判』トマス・H・クック, 村松潔訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2013,2015,☆☆☆★

クックの最新刊。大学教授の妻が薬による自殺で発見された。しかし発見した大学教授の対応が不自然だったことから、検察は殺人と判断し、大学教授を訴える。本書は、その裁判の1日目から始まる。検察側は、大学教授が遺体発見時に落ち着いていたこと、遺書で…

サラリーマンの夢――『神様からひと言』荻原浩,光文社文庫,2002,2005

荻原氏の作品は、『ハードボイルド・エッグ』『サニーサイドエッグ』が既読でそれぞれ面白かったのですが、何故か他の作品を手に取ることがなく、スルーしてきました。本書は、サラリーマンマンガは多くありますが(あれ、最近は少なくなっている? 具体例が…

尋常ではないキャラ立ち――『ロスジェネの逆襲』池井戸潤,ダイヤモンド社,2012

正しくはミステリではなくエンタメです。前作の続きで、主人公の半沢直樹が証券会社に出向されたところから始まります。面白いです。一つひとつの台詞がテレビドラマと同じ配役、リズムで脳内で再生されました。 しかし、この人たちは本業をほっぽり出して(…

万歩書店ふたたび――「特集 夢の楽園「万歩書店」で遊ぼう!」『本の雑誌 382号』本の雑誌編集部,本の雑誌社,2015

なんといっても特集の『夢の楽園「万歩書店」で遊ぼう!』ですよね。万歩書店には2007年9月にレンタカーで全部の店舗を回り、あまりのものすごさに酔ってしまいました。それから2回ほど本店に行ってます。仕事で岡山に出張したとき、夜しか時間がもてず、レ…

C級のA級私立探偵物語――『ララバイ・タウン』ロバート・クレイス, 高橋恭美子訳、扶桑社ミステリー,1992,1994,☆☆☆

ロバート・クレイスは処女作の『モンキーズ・レインコート』が翻訳されたとき読んでいたのですが、ストーリーがよく理解できなくて、それも何度も遡ったにかかわらず、これは自分と相性が悪い作家に分類して、手に取らない作家に認定していました。 今回手に…

『私がデビューしたころ ―ミステリ作家51人の始まり』東京創元社編集部編,東京創元社,2014

ミステリ雑誌に連載されたタイトル通りのテーマのエッセイをまとめたもの。作家になるプロセスがさまざまであることがわかります。そのなかで新人賞などのコンテストやベストランキングには向いていない作風だけれども、出版されてしまえば、ある程度のコン…

『通訳日記―ザックジャパン1397日の記録』矢野大輔,文藝春秋,2014

ブラジルW杯の日本代表監督のザッケローニ氏の通訳をしていた矢野氏の日記をまとめたもの。就任から解散までが書かれています。ザックにおける日本代表の評価を知るものであり、それはマスコミで発表したものと変わりません。ザック氏は本当に正直だったのだ…

評価が分かれるのが理解できる――『罪の段階』リチャード・ノース・パタースン, 東江一紀訳,新潮文庫,1992,1998,☆☆☆★

『推定無罪』『法律事務所』が翻訳されたとき、リーガル・サスペンス・ミステリが流行って、多くの作品が翻訳されましたが、本書はその中の一つでした。翻訳時期が各種ベストテン企画の投票時期に都合がよくなかったため、各書評では評判がよかったにもかか…

まさかの法廷物の名作――『試行錯誤』アントニイ・バークリー, 鮎川信夫訳,創元推理文庫,1937,1994,☆☆☆☆★

本書はイギリス黄金期の作家の1人であるバークリーの代表作といわれています。私は本書が分厚いため、購入したまま、ずっと積ん読のままだったのですが、まあひと月ぐらいかかっても良いから、毎日少しずつ読み進めようと、何の予備知識もなく手に取りました…

爆笑するショートショート群――『独創短編シリーズ 野粼まど劇場』野崎まど, 電撃文庫,2012,☆☆☆☆

24の短編+ショートショートですが、落ちを重点的にしているわけではなく、設定と展開の奇妙さが面白いものとなっています。例えるならば、筒井康隆氏の短編でしょうか。現代の新しい文章や活字による笑いの方法の一つがここにある、と断言してもよいでしょう…

『三つ目がとおる』に似ているのが嬉しい――『舞面真面とお面の女』野崎まど,メディアワークス文庫,2010,☆☆☆

『[映]アムリタ』でデビューした野崎まど氏の第2作目の作品。新本格系のミステリで、フェアプレイを重要視してません。工学部の大学院生の男が、祖父が病床で死ぬ直前に記した遺言らしき文言の意味を解いてほしいと、叔父から依頼を受けた。その文言は「箱を…

天才を描く――『[映]アムリタ』野崎まど, メディアワークス文庫,2009,☆☆☆★

最近、派手ではないものの話題となるライトノベルを次々に発表し、SFでも評価を受けている野崎氏のデビュー作。私は、『本の雑誌』の若島先生の評価で気になりました。なんとなく自分の感性に合っている作家ではないかと。 本書は、天才監督の創る映画そのも…

古本屋へ行くのは愉しい――『本棚探偵の冒険』喜国雅彦,双葉文庫,2005

古本好きの古書や本にまつわるエッセイ集。本好きならば共感持てる内容なので、本好きは必読です。文体が軽いのに、一編を読み終えると疲れが出てきます。おそらくは書名など固有名詞に対して一つひとつ引っかかりをもつからでしょう。 ちなみに以下は本日行…

仕掛けを考える――『キネ旬総研エンタメ叢書 アニメプロデューサーの仕事論』キネマ旬報映画総合研究所編,キネマ旬報社,2011

プロダクションI.Gの石川氏、ボンズの南氏、角川書店の安田氏、サンライズの内田氏、キングレコードの大月氏の5名のアニメプロデューサーの仕事がどういうものなのか訊いたインタビュー集。安田氏って本当に存在していたんだ、と驚きました。あまりにも多く…

『アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本』舛本和也,星海社新書,2014

作者はアニメスタジオのトリガーのプロデューサー。アニメ制作においては、演出、作画監督に並ぶアニメの質に重要な役割にもかかわらず、あまり語られてきませんでした。本書はアニメの制作進行の役割とマニュアルを解説したものです。 私の興味としては、他…

『知らない映画のサントラを聴く』竹宮ゆゆこ,新潮文庫,2014

竹宮ゆゆこ氏の文庫書き下ろし新作。23歳の無職の女性が主人公のラブストーリーというよりも青春小説といったほうがよいと思う。新潮社では『とらドラ!』の社会人版のようなラブストーリーで注文したのかもしれないし、作者もその注文を受けたのだろうけど…

『人生相談。』真梨幸子,講談社,2014

新聞の人生相談コーナーをモチーフにした奇妙な話の連作短編集。 前もって、人生相談をネタにしたものぐらいの知識でしたので、1編目を読んで、そのあまりの短さに、もっと掘り下げられるネタなのにもったいない、と思いましたが、読み進むにつれて、人生相…

『ゴーストマン 時限紙幣』ロジャー・ホッブズ, 田口俊樹訳,文藝春秋,2014 ☆☆☆☆

じつは、11月初旬ぐらいに読み終わっていました。今のインターネットが発達した情報化社会(という言葉も古いな……)において、キャラクターがフィジカル中心の冒険小説は難しいと思っていたのですが、本書はその壁の乗り越えました。非常にスピーディに読ま…

『ダブル・プロット』岡嶋二人,講談社文庫,2011

岡嶋二人氏の昔の短編集に、新たに未収録短編を3本収載し、新たに発行したもの。「記録された殺人」「こっちむいてエンジェル」「眠ってサヨナラ」「バッド・チューニング」「遅れて来た年賀状」「迷い道」「密室の抜け穴」「アウト・フォーカス」「ダブル・…

『最貧困女子』鈴木大介,幻冬舎新書,2014

昨年の発行直後からネット上などで話題にあげられていた新書です。本書は「最貧困女子」を「セックスワーク(売春や性風俗)で日銭を稼ぐしかない」貧困女子をテーマにしたもので、その原因を「慎重」に解説しています。 筆者は、低所得を前提に「家族の無縁…

『泣き虫弱虫諸葛孔明 第四部』酒見賢一,文藝春秋,2014

「泣き虫弱虫諸葛孔明」シリーズの第四弾。龐統士元(名前がかっこいい)の劉備軍への加入から、その死、益州の攻略、荆州をめぐっての関羽の敗北と死、曹操の死、蜀漢の建国、さらに劉備の死までが語られます。リーダビリティが高く、すらすら読むことがで…

『ちばてつやが語る「ちばてつや」』ちばてつや,集英社新書,2014

ちばてつや氏のデビューから今のところの最後の作品までの自作解説集。これは、たぶんですが、『ちばてつや全集』刊行の時に一冊一冊ちば氏が自作解説をおまけで付けていましたが、それらをまとめたもののようです。できればまとめることをせず、そのまま転…

『ミステリマガジン 2015年 01月号』早川書房,2014

昨年のニュースのなかで気になったものといえば、以下の「〈ミステリマガジン〉〈SFマガジン〉〈悲劇喜劇〉隔月刊化のお知らせ (2014/11/26)」http://www.hayakawa-online.co.jp/new/2014-11-26-211853.html です。巷間いわれてる翻訳ミステリの売れ行き…

哲学書と小説(フィクション)の脳の使い方は異なるのか?

4カ月ほどブログを中断してしまいましたが、どうも哲学書を読んでしまったのが理由のようです。カントなどの哲学書を読むと、小説が読めなくなってしまいます。このブログでは哲学書をあまり取り上げていませんが、たまに読みます。これは数年前にも2カ月…

『黒い瞳のブロンド』ベンジャミン・ブラック, 小鷹信光訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2014,2014 ☆☆☆☆

さすが『長いお別れ』の続編で、原著発行直後の翻訳出版です。早川書房が他社に版権と取られてたまるか、というような印象を受けます。 いかにもチャンドラーのマーロウ物語のパスティーシュという感じがしていて、非常に好感がもてました。また、当時のハー…