ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

小説・評論

『職業としての小説家』村上春樹,スイッチ・パブリッシング,2015ーー小説と小説家にまつわる話

僕は村上春樹氏の小説を昔はたくさん読んでいましたが、いつしか手に取らなくなってしまいました。『中国行きのスロウ・ボート』『カンガルー日和』『回転木馬のデッド・ヒート』などの初期短編集なんかは、大学のころ何度も読んだものもあります。『羊をめ…

『面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録』三木一馬,KADOKAWA,2015――エンタメ編集者のビジネス書

この頃、編集者本の出版が増えているような気がします。あれとかこれとか……(すでに購入しています)。そんななかで本書は、電撃文庫でヒットを飛ばしているスター編集者の編集術をまとめたものです。 私の仕事内容とは異なりますが、少しでも参考になればな…

『空飛ぶタイヤ』池井戸潤,講談社文庫,2006,2009

池井戸氏の「2002年に発生した三菱自動車工業(三菱ふそうトラック・バス)製大型トラックの脱輪による死傷事故、三菱自動車によるリコール隠しなどを物語の下敷きとしている」(ウィキペディアより)フィクションで、テレビドラマ化はテーマがテーマだけに広…

サラリーマンの夢――『神様からひと言』荻原浩,光文社文庫,2002,2005

荻原氏の作品は、『ハードボイルド・エッグ』『サニーサイドエッグ』が既読でそれぞれ面白かったのですが、何故か他の作品を手に取ることがなく、スルーしてきました。本書は、サラリーマンマンガは多くありますが(あれ、最近は少なくなっている? 具体例が…

『夢を売る男』百田尚樹,太田出版,2013

自費出版を専門に手がける出版社を舞台にした話題作。自費出版ビジネスとはどういうものか分かります。これがリアルなものか確信をもっていえませんが、私も「きちんとした原稿を書かないにもかかわらず、どうして本を出版したがる人が多いのだろう」と愚痴…

『なめらかな社会とその敵』鈴木健,勁草書房,2013

各方面の書評で尋常ではない評価を受けていたので読んでみましたが、内容と用語が難解で十全に理解したとはいえません。というわけで、私は、もし「なめらかな社会」が訪れたらどうなるのか、SF小説として読みました(著者もSFの原案をしていたことがあるよ…

『想像ラジオ』いとうせいこう,河出書房新社,2013

朝日新聞の書評で絶賛されていたので興味をもって購入。いとう氏の作品は初めてです。私にとって、いとう氏で思い出すイメージは、永倉万治の文庫の解説なんです。『ホットドッグプレス』の編集時代のお話でした。 本書なのですが、38歳の男がパーソナリティ…

『太陽の塔』森見登美彦,新潮文庫,2003→2006

未だに私にとっては森見氏は『夜は短し歩けよ乙女』の著者で、本作は日本ファンタジーノベル大賞を受賞したデビュー作。『夜は…』は非常に愉しんだので、他の作品も辿って読むつもりだったのが、どういうわけかこれまで時間が空いてしまいました。 主人公は…

『小説講座 売れる作家の全技術――デビューだけで満足してはいけない』大沢在昌,角川書店,2012.

大沢在昌氏の小説の書き方講座。『小説 野性時代』に連載されていたものを再編集してまとめたもの。月に一回、12名のプロの作家志望者を集めて、テーマに合わせた短編小説の提出を課題にし、それにそって講義+作品講評をしています。 講演者が大沢氏ですの…

『映像の原則 改訂版』富野由悠季,キネマ旬報社,2011

富野氏の映像制作に当たっての基本テキスト。「画(え)の動きそのもので流れているもの」である映像がどのような特性があるか、映像・時間・物語(お話)の関係、面白さはどこから生まれるかなど、ベーシックなことが書かれています。 アニメをみていると、…

『宮崎駿の世界』竹書房,2004

『ハウルの動く城』公開時に編集されたムック本。鈴木敏夫×石井克人、押井守×上野敏哉の対談、斎藤環、森川嘉一郎、山本直樹、氷川竜介、正木晃、小松和彦、米沢嘉博、村瀬学、安藤雅司×鈴木健一×村田和也の鼎談など、エッセイ・評論が詰め込まれています。…

『小説世界のロビンソン』小林信彦,新潮文庫,1989→1992.

本書は、タイトルから『地獄の読書録』と同様に、小林信彦氏の小説に関するエッセイ集と誤解をしそうですが、そうではなく「小説とはどうあるべきか」「面白い小説となどういうものか」を示した小説評論であり、あるいは小説宣言といってもよいでしょう。小…

「詩学――創作論」『世界の名著 8 アリストテレス』アリストテレス, 田中美知太郎訳,中央公論新社,前340年代→1979.

ギリシャの哲人アリストテレスの詩作(創作物)における創作論。以下は覚え書きです。読んでいると、『オデュッセイア』を批判していたり、創作オタクの評論のような気がしてきて、非常に興味深いです。 まず、詩(創作物)と、その作者である作家(詩人)の…

『ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門』ローレンス・ブロック, 田口俊樹, 加賀山卓朗訳,原書房,1981→2003.

タイトルは、『ベストセラー作家入門』といい、何となく下世話なものを想像しがちですが、内容はそのようなものでなく、『ライダーズ・ダイジェスト』(アメリカの作家志望者向けの雑誌なのでしょうか?)に連載されたものであるように、作家志望者がプロ作…

『極北クレイマー』海堂尊,朝日文庫,2009→2011

崩壊する地方の市民病院を舞台にしたエンタメ小説。主人公は、大学病院に勤務していたが、北海道の極北市民病院にとばされた非常勤外科医の今中医師。今中は、病院における事務長と病院長の対立、市と病院の対立など病院内のさまざまな出来事に遭遇し、翻弄…

『勝つために戦え!〈監督ゼッキョー篇〉』押井守、徳間書店、2010/09

前作『勝つために戦え!〈監督篇〉』が好評だったための続編。押井氏の監督論を述べたもの。海外オタク編がリドリー・スコット、キューブリック、コッポラ、ルーカス、スピルバーグ、ロジャー・コーマン、ティム・バートン、タランティーノなど。海外巨匠編が…

『まんが学特講――目からウロコの戦後まんが史』みなもと太郎, 大塚英志,角川学芸出版,2010

みたもと太郎氏を講師として、大塚英志氏が聞き役として、大塚氏が抱いていた「トキワ荘史観」とは異なるマンガ史観を解説したもの。私も大塚氏と同じような考えをもっていましたが、本書の貸本劇画から連なるマンガ史観によって、頭の隅っこにぐにゅぐにゅ…

『大聖堂〈中〉〈下〉』ケン・フォレット, 矢野浩三郎,新潮社,1989→1991

中巻でようやく大聖堂の建築に着手します。先はまだ長いです。とにかく長かった……。今回、ソフトバンク文庫ではなく新潮文庫の上・中・下巻だったのですが、各巻およそ600頁で全部でおよぞ1800頁。出張があったので、新幹線の往復もありましたが、読んでも読…

『大聖堂〈上〉』ケン・フォレット, 矢野浩三郎訳,新潮社,1989→1991

最近、ソフトバンク文庫版も出版されていますが、あえて新潮文庫版をブックオフで購入。長くて長くて、とりあえず上巻を読んだところ。4〜5年ぐらい前に友人から「とにかく面白い」と語られて、いつか読もうと購入していたのですが、あまりの長さに積ん読…

『となり町戦争』三崎亜記,集英社,2005→2006

発表されたとき好評を得たとはいえ、面白いと思う人と面白くないという人というように、かなり読者を選ぶ小説だと思う。僕は読書中は作者の意図が見え見えで面白いと思わなかった。読後、アマゾンのレビューをみると賛否両論である。まあしようがない。とな…

『北村薫の創作表現講義―あなたを読む、わたしを書く』 北村薫、新潮社、2008

本書は、北村薫さんが早稲田大学文学部で行った「表現の授業」をまとめたものです。まえがきによると、講義そのものは生徒作の掌編小説を読んでの検討が6〜7割を占めており、本書はそれらの前提にある総論的なところを使用しているそうです。したがって、…

 『新聞記者 夏目漱石』 牧村健一郎、平凡社、2005

本書の発行当時、さまざまな書評で好意的に取りあげられていたので、わたしは書名だけ記憶していて、書店や図書館の文芸評論のコーナーで軽く探してみたものの見つけることができなかったものです。先日、新書の棚で偶然見かけたときは、単行本だと思ってい…

 『盗作の文学史』 栗原裕一郎、新曜社、2008

本書は、小説などにかかわる文芸作品について、盗作事件となったものを集めたもの。このような側面から書くのは、非常に難しいけれど、筆者がとてもニュートラルな視点にたっていて、人間の嫌なエゴ的な部分がむき出しにならず、報じられたことのみを掲載し…

 『風の帰る場所―ナウシカから千尋までの軌跡』 宮崎 駿、ロッキング・オン、2002

渋谷陽一氏による宮崎駿氏へのロングインタビュー5本を集めたもの。渋谷氏がアニメ的なアプローチではなく、一人の映画監督としてインタビューしているので、ちょっと他とは視点が異なっています。6月5日に放映された『千と千尋の神隠し』を流し見て、積…

 『ローマ人の物語 (6)(7) ― 勝者の混迷(上)(下)、塩野七生、新潮社、2002

「ローマ人の物語」シリーズを年一つずつ読んでるなあ。偉いなあオレ。 本作では、カルタゴ滅亡語の紀元前2世紀半ばからカエサル出現までの物語。スキピオが死に、具ラックス兄弟が改革に失敗し、マリウスが出現し、スッラが秩序を戻し、ポンペイウスがオリ…

 『すべての映画はアニメになる』押井守、徳間書店、2004

「イノセンス」公開時に編まれたアニメ雑誌等に掲載された自作アニメ映画に関する対談+エッセイ+インタビュー集。対談相手は、宮崎駿、大森一樹、安彦良和、今関あきよし、河森正治、光瀬龍、金子修介、今関あきよし、長部日出雄、池田敏晴、富野由悠季、…

『作者の死』ギルバート・アデア、高橋進訳、早川書房、1992→1993

アデアの『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』の描き方に興味をもったこと、また若島正氏の『殺しの時間――乱視読者のミステリ散歩』で紹介されていたのを思い出して、本書を手にとった次第。 ところで『殺しの時間』の内容が『ミステリマガジン』に連載され…

『昭和出版残侠伝』嵐山光三郎、筑摩書房、2006

嵐山氏が平凡社を退職し、青人社を立ち上げ、「ドリブ」編集長をしていたころの自伝的物語。「ドリブ」は中坊のころ、コンビニなどでやたら売られていたので、手にとって読んで、「なんかいい加減なB流雑誌だなあ」とあまり興味をもっていませんでした。その…

『ストーリーメーカー 創作のための物語論』大塚英志、アスキー・メディアワークス、2008(○+)

『物語の体操』『キャラクター小説の作り方』『キャラクターメーカー』に引き続く、物語を作るためのマニュアル本。いわゆる物語「演習」本。書店でみたとき、「この手があったか」と企画内容に感嘆しました。大塚氏のこのような学究的なところから離れて語…

『ゼロ年代の想像力』宇野常寛、早川書房、2008(○+)

新世代の著者が書く話題の社会批評集。小説、映画、マンガ、テレビドラマ、アニメなどをはじめとする膨大なサブカルチャー群を紹介した上で、永遠の課題である「どこから来て、今どこにいて、どこへ行くのか」を語った大著。本書の今を語る「サヴァイブ感」…