ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『殺人者の顔』ヘニング・マンケル, 柳沢由実子訳,東京創元社,1991→2001

 『タンゴステップ』で作者が気になった。警察小説クルト・ヴァランダー・シリーズを第一作から読むつもり。シリーズが完結しているおり、また文庫なので、おそらく10年後には手に入れることが難しくなっているだろう。今のうちに集めておく方がよいだろう。

 一行目から、独特な世界観に包まれる。これは以前味わったことがある……としばし考えると、そう、これはシムノンであると行き当たる。このあっさり、かつねちっこい、誰もが最後のホンネを語らない、口にしない……。これはヨーロッパ独特のものなのか? いや、おそらくマンケルは、メグレ警部シリーズを強く意識しているのではないだろうか。それに、アメリカの警察小説の手法を取り入れている感じがする。

 舞台は、スウェーデン南部の田舎の村。その一軒家で静かに暮らしていた老夫婦が、人間だできることではないと思われるほど残酷な姿で殺された。縛り上げられ、殴られ、殺されたのだ。刑事のヴァランダーは異様な殺人現場から普通の犯罪者と違う匂いをかぎ取ったのだが……。

 刑事のヴァランダーを軸に物語が進みます。ヴァランダーの認知症(本書では痴呆症ですね)の父親、別れた妻、都会に行った大学生の娘など、少しずつ物語が歪んでいきます。とはいうものの、ここが本書の魅力ではあるのですが、事件の本筋とは異なるので、私には無駄かなと感じましたね。このあたりが、第一作なんでしょうかね。リーダビリティは高く、エド・マクの感じも出ていて、☆☆☆★というところです。

殺人者の顔 (創元推理文庫)

殺人者の顔 (創元推理文庫)