ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『プードルの身代金』パトリシア・ハイスミス, 岡田葉子訳,扶桑社ミステリー,1972,1997

 ハイスミス14作目の作品。カバー紹介に「中期の代表作、ここに新訳で登場!」とあります。確か旧訳が映画の公開にあわせて出版されていたように思います。

 出版社に勤めるノンフィクションの編集者のエドワード・レイノルズとその妻のグレタが飼っているプードルを誘拐したという嫌がらせの手紙が届いたのは三度目だった。昨年、18歳の娘を銃弾に撃たれて亡くしてしまい立ち直っていないところだった。リザが消えたのはエドが散歩をしているときだった。次の誘拐犯からの手紙では身代金として1000ドル要求してきた。リザは死んでいるかもしれないが、誘拐犯のいうとおり1000ドルを指定された公園に置いてきた。しかしリザは戻らなかった。エドは百九十目通りの分署を尋ねたが警察は捜査に熱心ではなさそうだった。

 そんなとき興味をもったのが24歳のクラレンス巡査で、彼はエドを尋ね、担当ではないが個人的に捜査を始めた。クラレンスは誘拐の手紙のコピーをとって読んだ後、現場に戻ってたまたま見かけた、ぼろ靴の中年の小男をあやしいと思い追跡したが、その男のアパートでは取り次いでもらえなかった。

 一方、その中年の小男で、犯人の51歳のケネス・ロワジンスキーはもう1000ドル要求する手紙を書いていた。彼はプードルを連れたエドがねたましいという理由だけで、リザを誘拐して殺してしまった後に、誘拐の手紙を送っていた。クラレンスはもう一度ケネスのアパートを訪ね、字を書いてもらい、嫌がらせの手紙の字と似ていることを確認すると、犬の誘拐犯はあなたでしょ、と聞くと、ケネスは「そうでさ」と肯定した。加えてケネスは、犬は生きていて他人に預けている、犬を返して欲しければもう1000ドルを要求したのだ…。

 タイトルからすると、誘拐モノのコメディタッチの小説かなと思うのですが、偶然が多用された、もう思いっきりハイスミスの作品で、ブラックユーモア満載でした。これを映画にしたがるのもわかる気がします。ハイスミスのキャラクターは何でそういう行動をとるの、と驚かされるのですが、人間が描けていないというわけではなく、何となく納得してしまう力があります。

 結末にもう少し盛り上げがあればなあ、と☆☆☆★というところです。前回の短編集より評価が落ちていますが、短編ですと、最後の盛り上がりが必要ないので、少し評価が上がるのかもしれませんね。でも、ハイスミスのキャラ描写は随一なんですよね。そのため、しばらくすると手にとりたくなるのです。

プードルの身代金 (扶桑社ミステリー)

プードルの身代金 (扶桑社ミステリー)