ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『黒い迷宮ールーシー・ブラックマン事件15年目の真実』リチャード・ロイド・パリー,濱野大道訳,早川書房,2011,2015――一種の怒りと恐怖を抱くことができる傑作

 ホステスのイギリスの若い女性を監禁・殺人を行った事件を追ったノンフィクション。ものすごくリーダビリティが高く、描写が理性的で偏ることがなく、一種の怒りと恐怖を抱くことができる傑作。

 ニュースなどで犯人が報道されたが、詳しい説明はなく、どのようにして、犯罪を行ったのか、客観的で事実のみを記し、わかる範囲で誠実に書かれている。

 本書について、どのように語るかは難しい。誰もが平凡に見えるし、平凡に見えない――犯人を除いてだけど。いやその犯人でさえも、もし出自が平凡ならば、平凡な人間だったかもしれない。そのように感じさせるほど、この作者は中立であり、全体像をとらえる(果たして、正しい立ち位置だったのだろうか?)。

 犯人像も、事件そのものの関係性を除けば、サイコミステリの犯人像と一致してしまうかもしれないほど、逆説的にいって平凡であり魅力的かつ恐ろしい。出自からの影響、家族とくに親からの影響、育てられ方など、犯人になっても仕方がない面もあるし、同じ境遇の人はいて、そうならなかった人もいるのだ。

 それでいて、やはり、犯罪を行えるメンタリティと行えないメンタリティに壁を感じる。いや、それを越えるのは、いつの間にか気づかないうちであり、意識せずに怪物になっているのだろうか? そんなふうに感じてしまう。

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実