ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『湖の男』アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢 由実子訳,東京創元社,2004,2017――冷戦時代の悲劇は

 エーレンデュル警部シリーズの第四作目の作品――ここで、ウィキペディアを見たら第六作目の作品とあるけれど、どちらが正しいのでしょうか。すでに15作もあるのでしたら、年2冊は翻訳・発行してほしいものです。やはり時代と合わせていなければ正当な評価はできないからです。

 地震により湖底の割れ目から水が大量に排出してしまった湖の底で、砂にまみれた頭蓋骨に穴があいている全身の骸骨が見つかった。その骸骨は男性で、四、五十代で殺されて、おまけにソ連製の盗聴器を身体に重しとして付けられて、三十年ぐらい湖に沈められたらしい。エーレンデュルら警察は、三十年前ぐらいに失踪したり行方不明になった人物を洗い出して一人一人探してみた……。

 本書は『緑衣の女』と同様に、現代の捜査と冷戦時代の東ドイツの話を時間の流れを交互に物語る構成となっています。この構成は、二つの物語が最後に収斂していくのはいいのですが、どうもミステリとしては謎解き要素を放棄しているようで、魅力を失っているのではないかとどうしても感じてしまいます。そのため私にとっては、それだけでポイントが落ちます。

 また本書は、警察小説におけるリアリティを保持したいという作者の狙いを感じます。最後にエーレンデュルは犯人を見つけますが、地道な捜査によってです。派手なトリックなどはありません。それでも、それぞれのキャラクターがメグレ警部シリーズのように読者に何かを感じさせるような筆致のため、読まされてしまいます。というわけで、☆☆☆★というところです。

 どうも冷戦時代の悲劇については、私にはピンときませんでした。あれほどスパイ小説を読んでいたのに遠くなってしまったんだなあ……。でも原著が書かれた2004年だったら、そんなことなかったかもしれない。

湖の男

湖の男