ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『印』アーナルデュル・インドリダソン,柳沢由実子訳,東京創元社,2007,2022

 エーレンデュル捜査官シリーズ第6作目の作品。なかなか良い。私はこのシリーズがロス・マクドナルドの雰囲気をまとっていて,非常に好みである。ロスマクの魅力は複雑なプロットが解かれていく様だと思っていたけど,インドリダソンを読むとユーモアのない世界があり悲劇が起こる世界観そのものだということがわかる。

 意外にも休暇中の刑事が捜査するミステリで,首つりで自死したマリアの友人は,マリアが自死したことを信じておらず,生前のマリアが霊媒師に合ったときの音声テープを持って,エーレンデュルに再捜査を求める。興味をもったエーレンデュルは,捜査が終了していたため仕事とは別に一人で再捜査を行う。マリアのことや夫,友人のことを聞いて回っていくと,単なる自死ではないのではないかと訝し始める…。

 純粋なミステリ的なネタでいうと,クリスティの変形バージョンといえます。とはいうものの,さらに人間描写をバージョンアップさせて,それを不自然に思させないストーリー展開,キャラクター描写が秀逸です。むしろ,それらが秀逸なために,クリスティ的な落ちに違和感を感じるくらいです。というわけで,本書も評価が高く,☆☆☆☆です。インドリダソンの翻訳を最低でも年一ぐらいは出してほしいものです。