ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『現代短篇の名手たち5 探偵学入門』マイクル・Z・リューイン, 田口俊樹・他訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2009

 早川書房の「現代短篇の名手たち」シリーズの一冊。このような企画は大歓迎です。時間的や精神的に短篇しか読むことができないときがあるので、短編集は定期的に出版してほしいものです。それも「総頁数350頁以内」だと嬉しいです。出版社(編集者)は短篇だとさまざまな作家を入れないと、または頁数が多くないと売れないのではないかと不安になるのでしょうが、それは不要です。このようなニーズは確実にあると思うのですが、いかがでしょう。アンソロジーでも結構です。それに応えてるのが、文庫書き下ろし時代小説ではないでしょうか。

 さて、本書はリューインですが「探偵をやってみたら」「イギリスは嫌だ」「ダニーのお手柄」「ダニー、職分を果たす」「旅行者」「夜勤」「女が望むもの」「ボス」「まちがい電話」「恩人の手」「ヒット」「偶然が重なるときには」「少女と老人のおはなし」「風変わりな遺言」「ミスター・ハード・マン」「ストーリー・ノート」の16短篇を含むもの。ショートショートからミステリまでありますが、主に奇妙な味テイストが多いかな。

 これだけリューインの作品を続け様に読んでみると、読みやすい作品、読みづらい作品があるのがわかります。読みづらいというのは、何度読んでも内容がしっくり理解できないという意味です。極端にいえば、リアル描写なのか、寓話なのか分からないのです。これは訳者の田口氏があとがきで「作品全篇を通して、描写がどこまでも客観的なことに」気づいたと記しています。ここがその理由ではないかと思います。

 ハードボイルド文体は「客観的で簡潔な描写を記述する方法、文体」ですが、これは読み手の経験値を図るものではないでしょうか。この経験値をもっている人は、そのような描写でも理解ができますが、そうでない人には理解できない。このあたりに、後期リューインの人気の陰りの原因があるような気がします。

 ……だって、『そして赤ん坊が落ちる』は改めて読んでも、冒頭からエンディングまで、ハードボイルドミステリの傑作だったと思いますからね。