矢作氏のマンハッタンの名無しの探偵が主人公のショートハードボイルドミステリ集。正直言って、今の自分には意表を突かれる面白さでした。
私立探偵が主人公のハードボイルドミステリは、警察小説と異なり、マニアのみが好み、一般化されるまでに至りませんでした。その理由はよくわかりません。職業として警官は良くても、私立探偵が良くない理由……。それはリアリティがないからでしょうか。現実には犯罪捜査を行う探偵は存在しないから。
さて、そのリアリティをない欠点を克服するにはどうしたらよいか。これは『黒後家蜘蛛の会』シリーズにもいえていることですが、リアリティに違和感を感じる前に物語を終わらせてしまえばいい。そうすれば、物語そのものを味わうことができる。これは先日読んだ『リバースエッジ大川端探偵社』も同じですね。
本作は、310頁で17の短篇が収録されています。14頁のものもあるので、短篇というよりも、ショートショートに味わいが近く感じます。矢作氏の一つの文も退屈に感じさせない文章が生きています。いま読まれるべき作品という意味でも☆☆☆☆です。
「こんど会ったらキスしたくなるでしょうね」
そう言って、彼女はオフィスを出て行った。
床屋へ行って来なさいと、言われたような気がした。(12頁より)
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