ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『果てしなき輝きの果てに 』リズ・ムーア,竹内要江訳,ハヤカワ・ミステリ,2020,2020ーーリーロイ・パウダー警部補シリーズを好きな人は読んでみていいかも

 このコロナ禍のなか,小説はiPadを購入したことで,電子書籍が中心となり,少し昔の作品を再読していたため,更新をしていませんでしたが,読んだ本の紹介や感想だけでなく,その日のよしなしごとを,たまには記しておきます。

 本書は書評を読んでの購入で,最初30頁ぐらいまで読んだとき,ミステリ味が少なく主人公のしつこい描写に,セレクトに失敗しなかなと後悔しつつ,それならばあらすじだけ理解できれば良いと割り切って流し読みをしたのですが,私にとってはそれが成功でした。

 主人公は女性の若いパトロール警官のミッキーで,麻薬中毒者の連続娼婦殺人事件に遭遇し,一員として捜査に参加する。ミッキーにはここ数年会っていない妹のケイシーがおり,麻薬中毒者であったため,その被害者がいつケイシーになるのではないかという不安を抱えていた。

 ここから,ほとんどネタバレです。このミッキーがパトロール警官ですから,捜査の本筋にはおらず,ケイシーがどこにいるか探しているだけなので,ミステリ小説の本筋からも外れていて,どこが面白いのかわからないのですが,少しずつ読み込んでいるうちに,殺人事件の捜査の本筋に入ってきて,話が進みます。

 読み進むうちに,この小説は何となく懐かしい感じがしてきて,いったい何だろうと思っていると,舞台がアメリカの地方都市,「わたし」の一人称のパトロール警官で,どことなく時間がゆっくりだけど早く流れていく感じは,ハードボイルドミステリに似ていて,さらにリューインの夜勤刑事,リロイ・パウダー・シリーズを思い出させるのです。おそらく間違っていると思いますが,作者のムーアはリューインのファンなのではないでしょうか。しかし同じにしては単なるマネになってしまうので,自身の長所を組み合わせて,オリジナルにすることをもくろんだように思います。

 本作品には,クライマックスにどんでん返しがあるのですが,これはもし短く書いたならば見抜けていたと思いますが,あまりにも長い描写にまんまと騙されてしまいました。きちんと読んでいれば,主人公の考えは偏っていることがわかるので,フェアであると思います。

 しかし,主人公は推理をまったくせずに,いや,できずに他のキャラクターに犯人を教えてもらうという形で終えるというのは,ミステリ小説としては短所ですが,リアルな世界観にあると考えれば,そういうものかもしれませんし,作者もそれを狙ってやったのではないかと感じます。

 というわけで,少し甘く☆☆☆☆というところです。

果てしなき輝きの果てに (ハヤカワ・ミステリ)

果てしなき輝きの果てに (ハヤカワ・ミステリ)