ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『消失グラデーション』長沢樹,角川書店,2011

 2011年、第31回横溝正史ミステリ大賞受賞作。新人賞ながら2012年版の「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」で第6位に選ばれた作品です。綾辻氏、北村氏、馳氏が絶賛しているのも気になって手に取りました。

 冒頭から体言止めが多く出てくる文体が気になって、なかなか先に進むことができなかったものの、文体や世界観に慣れてくると、あまり気にならなくなりました。本作は一言で言うと、アガサ・クリスティです。クリスティは江戸川乱歩がいっていたように、中期から後期にかけても一定の水準作を維持し続けましたが、その方法は複数のトリックを活用したことです。一つのトリックを仕掛けるのではなく、物理トリック、叙述トリック、アリバイトリック、一人二役トリックなど1作の中に詰め込み、読者を手玉に取りました。

 私は、あれ、この書き方は変だなあ…と、その中の一つは早めに怪しんだのですが(綾辻氏が先行書があるといったもの)、他の何故その事件が起こったかという理由については、うまくやったなあ、と感心しました。なるほど、このために、このような設定にしたのかと。読後Amazonレビューを見ますと、あまりにも無粋な感想が並んでいますね。このような作品に深い人物描写など求めるべきではないのです。読者が騙されるか、騙されないか、フェアか、フェアではないか。それらにのみ価値が置かれるべきなのです。というわけで☆☆☆☆というところです。結果的に犯罪や事件ではないというのも、うまくやられましたね。

消失グラデーション

消失グラデーション