ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『七つの会議』池井戸潤,集英社文庫,集英社,2012,2016ーーサラリーマンのジレンマを会議で示す

 池井戸氏の中堅メーカー企業を舞台にしたクライムノベル。でも読んだ後でないとクライムノベルとわからない。最初にソフトカバーで出版されて、書店にたくさん並んでいたとき、タイトルが「会議」だし、半澤直樹シリーズがテレビで視聴率をとっていたから、半澤シリーズのような、ちょっと謎を織り込んだエンタメ小説かと思っていましたよ。そんなふうに判断した人は多かったんでしょうね。だから編集者はカバーにあえてネタバレともいえるクライムノベルと載せた。

 で、半澤シリーズとは少し異なったし、同じように面白かった。短編が8つあって、連作が連なって長編になっているんですけど、第一話が「居眠り八角」ですからね。時代小説のようなタイトルですけど、内容もそんな感じ。

 それぞれの短編の主人公が異なって、第一話が営業課長、第二話がネジを製作する会社の社長、第三話がメーカーに戻りOL、第四話が経理課の課長代理、第五話がカスタマー室の室長、第六話が営業部長、第七話が副社長で、少しずつ犯罪が浮かび上がるという仕組みになっている。

 この仕組みが物凄くうまい。働いたものならば誰もが経験するジレンマを選択していて、それがわかったときは、読者に対して「仕方がないよなあ」と思わせるようになっている。これを読み終わったのちに、いくつか専門書があったので、購入してしまったくらいだ(まだ読んでないけど)。

 人はどのような条件がそろえば、どの程度のレベルだったら、犯罪に手を染めるかを考えると、本書は見事にそれをついているといえるだろう。というわけで、サラリーマンの論理がわかるという意味を含めて、そしてストーリーテリングのうまさに、☆☆☆☆というところである。 

七つの会議 (集英社文庫)

七つの会議 (集英社文庫)

 

 小説の内容とは関係ないけど、八角という名前を聞くと森脇真末味の『緑茶夢』『おんなのこ物語』を思い出す。