ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

日本ミステリ

『厨子家の悪霊』山田風太郎,角川春樹事務所,1997

山田風太郎のミステリ短編集。『厨子家の悪霊』『殺人喜劇MW』『旅の獅子舞』『天誅』『眼中の悪魔』『虚像淫楽』『死者の呼び声』など7編を収録。登場人物の書き込みが少ないため、ちょっとシンプルな感じがしますが、ストーリーはそれぞれ工夫を凝らされ…

『ミステリが読みたい! 2010年版』ミステリマガジン編集部編,早川書房,2009

早川書房が発行する年間ベストミステリ案内ガイドブック。年間集計としては発行が早すぎだろうと呟きたくもなりますが、『このミス』との違いを鮮明にすることで、ミステリファンに対して両方とも購入させることを考えると、当然の発行時期ですね。 それに加…

『向日葵の咲かない夏』 道尾秀介,新潮社、2005→2008

道尾秀介氏の第2作目の作品。書店をのぞくと文庫でじわじわ売れているようです。 幻想小説と謎解き小説の折衷をいくミステリ小説。文体や世界観などは京極夏彦氏のようでもあり、技巧的なところは折原一氏のようでもあり、トリックそのものは歌野氏のある作…

 『犬はどこだ』 米澤穂信、東京創元社、2005→2008

米澤穂信氏の第6作目の作品。調査事務所〈紺屋S&R〉を主要舞台とした作品で、第1作目の予定のこと。 「私」こと25歳の紺屋長一郎は、仕事のストレスで体調を崩したため、故郷に戻り、犬探し専門の調査事務所を開業した。その準備をしていると、高校時代の…

 『25階の窓』 都筑道夫、新潮社、1982→1988

サブタイトルに「都筑道夫モダンホラー・コレクション」とある25編のショート・ホラー小説集。 「阿蘭陀すてれん」「高い窓」「かくれんぼ」「古いトランク」「燭台」「青信号」「神になった男」「人形の家」「猫の手」「片腕」「髑髏盃」「妙な電話」「超能…

 『キマイラの新しい城』 殊能将之、講談社、2004→2007

殊能将之氏の第7作目の作品にして最新作。珠能先生の作品は、一筋縄ではいかず、肩すかしを喰らわせられます。また、特徴的で魅力的なのは文体なのではないでしょうか。シンプルで全く情緒的ではなく、そのうえ一つの言葉に複数の意味をもっているかのよう…

 『幻の女』 香納諒一、角川書店、1998→2003

ハードボイルド作家の加納諒一氏の出世作となった、第52回日本推理作家協会賞受賞作。発表が1998年なのでおよそ10年前の作品。 弁護士の栖本は、5年前不倫のつきあいをしていたが姿を消した小林瞭子と街中で偶然再会した。その翌日、瞭子は栖本宛の相談の依…

 『象と耳鳴り』 恩田陸、祥伝社、1999→2003

謎解きミステリ連作短編集。収録作は、「曜変天目の夜」「新・D坂の殺人事件」「給水塔」「象と耳鳴り」「海にゐるのは人魚ではない」「ニューメキシコの夜」「誰かに聞いた話」「廃園」「待合室の冒険」「机上の論理」「往復書簡」「魔術師」の12編。 読ん…

 『少女には向かない職業』 桜庭一樹、東京創元社、2005→2007

タイトルから探偵ものかと思いきや、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の流れを受け継ぐいわゆるサスペンスものでした。 13歳の中学二年生の「あたし」こと大西葵は、人をふたり殺した、という告白から始まる。葵は、その殺人の経験から、「殺人者というのは…

『猟犬探偵』 稲見一良、光文社、1994→2006

猟犬を探す探偵「猟犬探偵」竜門卓を主人公にしたハードボイルド・ミステリの短編集。「トカチン、カラチン」「ギターと猟犬」「サイド・キック」「悪役と鳩」の4編を収録。都筑道夫の『くわえ煙草で死にたい』をはじめとする、西連寺剛シリーズにテイスト…

 『誰もわたしを愛さない』 樋口有介、東京創元社、1997→2007

元刑事のフリーライター柚木草平シリーズ第4作目の作品。このシリーズは、主人公柚木草平の軽い性格、バランスの良い正義感、別れた女房と娘とのちょっと複雑な関係など、エンタメ主人公として、ある意味ストライクゾーンにうまくはまっているところが魅力…

 『ひげのある男たち』 結城昌治、東京創元社、1959→2008

結城昌治の処女作。純粋な謎解きミステリ。評判が高かったものの、なかなか手にはいることなく、スルーしていましたが、創元推理文庫で復刊されたものを読みました。 この創元推理文庫の復刊のシリーズは、先日取りあげた『切断』のその一つで、非常に嬉しい…

 『切断』 黒川博行、東京創元社、1989→2004

黒川博行氏の11作目の作品。本作は、謎解きというよりも、警察ミステリ小説。とにかくダークでサイコなので、テイストは折原一氏に似ている。 彼は、ある真夜中、病院に親友して、糖尿病性腎症治療のため入院中の水谷という男の頸動脈を包丁で切断し殺した。…

 『詩的私的ジャック』 森 博嗣、講談社、1997

『詩的私的ジャック Jack the Poetical Private』はS&Mシリーズ第4作目。4つの連続密室殺人という独創的な設定のミステリ。 僕が、森作品を読むのは、『冷たい密室と博士たち』『笑わない数学者』に続いて3作目。そのどれもが、謎解きミステリとしては、…

 『造花の蜜』連城三紀彦、角川春樹事務所、2008

連城三紀彦氏の新作長篇ミステリ。誘拐サスペンスもの。初期の犯罪と犯人像が結びつくような幻想的なシーンに連れて行くような感じはないけど、どこか視点がゆらゆらしていて定まらない、読んでいる内容がが現実なのか、現実の一部分なのか判断できない、不…

 『情状鑑定人』逢坂剛、集英社、1988

逢阪剛氏の初期短編集。「情状鑑定人」「非常線」「不安なナンバー」「都会の野獣」「死の商人」「逃げる男」「暗い川」のサスペンスものを中心にした7編。展開の意外性を追求したようにおぼしいのだけど、描写が少なく厚みがないため、ちょっと上滑りして…

 『覆面作家は二人いる』北村薫、角川書店、1997

単行本の発行が平成3年ということは、今から18年前になる。北村薫氏は今まであまり面白いと思ったことがなったのですが、薄い短編集が読みたいと思って手にとったわけで、そんなに期待していなかったのですが、これがまた上質のコメディで面白く★★★★です。…

『春期限定いちごタルト事件』米澤穂信、東京創元社、2004

高校一年生の男の子・小鳩君と女の子・小佐内さんを主人公にした連作短編ミステリ。殺人事件ではなく、いわゆる日常の謎を解く物語で、5本の短編が収録されています。校内で女の子のポシェットが消えたので探したり、卒業した先輩が高尚な絵だと言い残した…

『このミステリーがすごい! 2009年版』『本の雑誌 307号』

なんか書籍そのものよりブックガイドばっかり購入している気がする。下記はブックガイド用としてです。■『このミステリーがすごい! 2009年版』Takarajima Books、2008 とりあえず近いうちに読もうかなと思うものは以下の通り。『ディスコ探偵水曜日』『フロ…

『硝子のハンマー』貴志祐介、角川書店、2007(○+)

『黒い家』『青の炎』の作家の日本推理作家協会賞を受賞した本格謎解きミステリ。解説代わりに掲載されていた法月綸太郎氏のインタビューが興味深かったので購入しました。 ある日曜日、港区の十二階建てのオフィスビルの最上階で、会社社長が何者かに撲殺さ…

『笑わない数学者』森博嗣、講談社、1996(○)

森博嗣氏の第3作目の作品。S&Mシリーズ3作目。私が読むのは2作目ですが、クラッシックな謎解きミステリの感が強いですなあ。新しいという感じがしません。だから最低限の面白さは保証されていますね。本作のトリックそのものは、まあミステリをよく読んで…

『ロートレック荘事件』筒井康隆、新潮社、1990→1995(○)

筒井康隆氏の数少ないミステリ小説のひとつ。なんて言ったらよいのでしょうか、今でいうプリーストのような小説です。って、本来は逆ですが。最後まで読んだ後、もう一度、最初から、トリックを確かめてしまいました。ストーリーを紹介したいのですが、設定…

『隠蔽捜査』今野敏、新潮社、2005→2008(○+)

本書は、2006年の第27回吉川英治文学新人賞受賞作。エンタテインメント職人作家・今野敏氏のファンを超えて受け入れられた出世作なのでしょう。私にとっては初めての今野敏氏であります。警察小説の傑作ということで手にとってみました。隠蔽捜査 (新潮文庫)…

『りら荘事件』鮎川哲也、講談社、1958→1992(○+)

戦後からデビューし活躍した謎解きミステリ作家・鮎川哲也の第2あるいは3長篇。鮎川氏の代表作であり、謎解きミステリの年代をこえて読まれるべき傑作でしょう。 というのも、オリジナルのトリックが用いられているからです。このトリックは結構流用されて…

 『誰か ----Somebody』宮部みゆき、文藝春秋、2007(○+)

誰か―Somebody (文春文庫)作者: 宮部みゆき出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2007/12/06メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 33回この商品を含むブログ (147件) を見る 宮部みゆき氏の現代物。解説で杉江松恋氏がサムスン物に例えていたので手にとりました。…

 『私という名の変奏曲』連城三紀彦、角川春樹事務所、1999(◎)

私という名の変奏曲 (ハルキ文庫)作者: 連城三紀彦出版社/メーカー: 角川春樹事務所発売日: 1999/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 1回この商品を含むブログ (5件) を見る 連城三紀彦氏の長篇ミステリ。初出は1986年発行。恐ろしくも凝りに凝ったシチュ…

 『シャドウ』道尾秀介、東京創元社、2006(◎)

シャドウ (ミステリ・フロンティア)作者: 道尾秀介出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2006/09/30メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 38回この商品を含むブログ (161件) を見る まんまと作者のミスディレクションにやられてしまいました。うーん、この犯…

 『ZOO 1・2』乙一、集英社、2006(◎)

ZOO〈1〉 (集英社文庫)作者: 乙一出版社/メーカー: 集英社発売日: 2006/05メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 61回この商品を含むブログ (305件) を見るZOO〈2〉 (集英社文庫)作者: 乙一出版社/メーカー: 集英社発売日: 2006/05メディア: 文庫購入: 5人 クリ…

 『グロテスク〈上・下〉』桐野夏生、文藝春秋、2003→2006(○+)

グロテスク〈上〉 (文春文庫)作者: 桐野夏生出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2006/09メディア: 文庫購入: 11人 クリック: 126回この商品を含むブログ (156件) を見るグロテスク〈下〉 (文春文庫)作者: 桐野夏生出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2006/09メ…

 『独白するユニバーサル横メルカトル』平山夢明、光文社、2006(○)

独白するユニバーサル横メルカトル作者: 平山夢明出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/08/22メディア: 単行本購入: 7人 クリック: 123回この商品を含むブログ (222件) を見る■人間のグロテスクな欲望 読み手を選ぶグロ系ミステリ短編集(「グロ系」は別にけ…