ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『カウント9』A・A・フェア, 宇野利泰訳,ハヤカワ・ミステリ,1958,1959ーーフーダニットよりもハウダニットで読者を引っ張る

  クール&ラム・シリーズ全29作中18作目の作品。中期後半にあたります。

 富豪家で探検家が開催したパーティで仏像と吹き矢が盗まれた。そのパーティではバーサが見張りを行っていたのだが。密室ともいえるところから、いったいどのようにして盗んだのか。またどうして、仏像と吹き矢を盗んだのか。ラムは盗品と取り返すよう依頼を受けた。捜査中に探検家自身がその毒の付けられた吹き矢で殺されてしまった。ラムはさらに容疑者の探検家の妻に犯人捜しを依頼する。

 タイトルの『カウント9』はボクシングのカウント10から一つ前の意味で、そこまで追い込まれたラムのことですが、そんなに追い込まれた感じはせず、最後には謎を解くことができない警察をひっかきまわすことに成功します。

 謎そのものは、ハウダニットについては、吹き矢を複製するというトリックは言われてみれば解けなくてはならないのですが、二つの盗品を実は別々で外にはこびまれた、そして一つはまだ密室に隠されいる、次に一つはカメラマンのカメラボックスに入れられて外に出た、さらにカメラボックスに入れたのはカメラマンじゃない他の人物だった、それから他の人物は脅されてカメラボックスに入れた、という次々に推理されて判明してくる展開は引っ張るのですが、フーダニットの根拠はいまいち曖昧。というわけで、いつものラム物の評価☆☆☆★といったところで、まあまあです。

 しかしこのシリーズでは一人称一視点をかたくなに守っているので、読者とフェアにあるべきというミステリの面白さを保っているので、トリックそのものがショボくても私はひいきにします。最後のシーンなど警察捜査の話を書くことができるのに、主人公が関わっていないシーンだとすっとばすんだもんなあ。いいですよ。

カウント9 (1959年) (世界探偵小説全集)

カウント9 (1959年) (世界探偵小説全集)