作者の塩田氏は,私にとって,いつの間にかデビューしていつの間にかベストセラー作家になってしまって,映画化などあったにもかかわらず,今まで手に取る機会がなかった作家。本書はネットインタビューでアニメ業界を舞台にした作品だということで,トリガーがひかれました。プロフやインタビューを読むと元新聞記者で,仕事が忙しいだろうにデビュー作がよく書けたものだなあと,まず感心しました。
さて,本書は前述のとおりアニメ業界の物語でミステリではありません。一つのアニメ作品を制作するために,高校時代以来の友人関係である二人の主人公たちが,翻弄されるストーリーです。主人公の一人はアニメーターでアナログからデジタル作画への移行に違和感を感じ,もう一人が念願の原作小説をアニメ化するプロデューサー(だと思う)が原作者やスポンサーの調整で苦闘します。そのほかにも多くの関わる人々の起こりうるアクシデントと幸運が書かれます。
最初は,硬筆な文体でアニメ業界を描写することに,リアルではないという違和感をもちましたが,次第に慣れてきて,最後はその違和感が消えました。とはいうものの,キャラが「おっさん」的でもっと突き抜けたほうがよかったと感じました。主人公二人が同じ原作が好きなため,似ているのも仕方ないのですが,例えばアニメでも嗜好が細分化されていますので,そこのところをもっと突き詰めることもできるのではないでしょうか。というわけで,☆☆☆★というところです。